Huawei対ZTE事件CJEU判決後の判例法
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Koninklijke Philips N.V.対Asustek Computers INC.、ハーグ控訴裁判所

2019年05月7日 - 事件番号: 200.221.250/01

http://caselaw.4ipcouncil.com/jp/dutch-court-decisions/koninklijke-philips-nv-v-asustek-computers-inc-court-appeal

A. 事実

本件は、消費者向け電子機器製造業者であり欧州電気通信標準化機構(European Telecommunications Standards Institute: ETSI)が開発した様々な標準の実施において潜在的に必須であるとして宣言済みの特許(標準必須特許又はSEP)のポートフォリオの保有者であるPhilipsと、ラップトップ、タブレット、及びスマートフォン等の無線機器の製造業者であるAsusとの間の紛争に関するものである。

Philipsは、公平、合理的、かつ非差別的(Fair, Reasonable and Non-Discriminatory: FRAND)な条件で標準の使用者がPhilipsのSEPにアクセスできるようにするとの誓約をETSIに対して行っていた。特に、Philipsは1998年に自社のSEPへのアクセスをFRAND条件でオファーするとの一般的(包括的)な誓約をETSIに対して行っていた。

2013年、Philipsは3G-UMTS及び4G-LTEの無線通信標準に包含される自社のポートフォリオについてAsusに通知し、ライセンス契約を提案した。両当事者間のその後の話し合いにおいて、Philipsは自社の特許の詳細を更に示し自社の特許及び対応する標準をマッピングしたクレームチャートを提供した。またPhilipsは、自社の標準ライセンス契約(Philipsのライセンスプログラムにおける標準ロイヤルティ料率とその計算方法を含む)もAsusに提出した。

2015年、交渉は決裂し、Philipsは欧州の様々な法域(即ち、イングランド、フランス、及びドイツ)において、とりわけ欧州特許1 623 511 (EP 511)に基づき侵害訴訟を提起した。Philipsは、EP 511特許が3G-UMTS及び4G-LTE標準に(潜在的に)必須であるとの宣言を行っていた。イングランド・ウェールズ高等法院は、EP 511 特許の有効性を支持する予備的評決(preliminary verdict)を下した。

Philipsは、オランダでは、とりわけ差止命令を求めてAsusに対する訴訟をハーグ地方裁判所(地方裁判所)において提起していた。地方裁判所は、EP 511特許に基づくPhilipsの差止請求を棄却した [1] 。Philipsは、ハーグ控訴裁判所(控訴裁判所)に控訴した。

本判決では、控訴裁判所がEP 511の有効性及び必須性を支持し、TFEU第102条に基づきFRAND違反を主張するAsusの抗弁(FRAND defense)を退け、Asusに対して係争中の特許を侵害している製品についての差止命令を出した [2]


B. 判決理由

控訴裁判所はEP 511特許の新規性及び進歩性を認め当該特許の有効性に対するAsusの異議を棄却した [3] 。更に、控訴裁判所は、当該特許が必須であり侵害されていると認めた [4]

控訴裁判所は、Asusの主張、即ち、Philipsが差止による救済を求めて侵害訴訟を提起する上でETSI に対する契約上のFRAND義務に違反しており、欧州司法裁判所(Court of Justice of the EU: CJEU) がHuawei対ZTE事件において定めた要件(Huawei要件)を遵守しなかったことによりTFEU第102 条 に違反したとの主張を審理した [5] 。特に、Asusは、(a) ETSI のIPR Policyに従った適切かつ適時なEP 511の開示をPhilipsが行なわず、また(b)提示した条件がFRANDである根拠を明確に示さなかったことでPhilipsがHuawei要件に反していたと主張した。

控訴裁判所は、前者について、EP 511の付与から2年後に当該特許が(潜在的に)必須であるとPhilipsが宣言したことは、SEPの「適時の開示(timely disclosure)」を求めるETSI IPR Policy第4.1条に基づく契約上の義務への違反に当たらないとした。

控訴裁判所は、ETSIの開示義務の根底にある一般的な目的について、ETSI標準に利用可能な最高の技術を組み入れることであって、Asusが主張したようにETSI 標準への参加者が最低のコストで(必須の)技術ソリューションを選択できるようにすることではないとした [6]  。また、宣言を行う義務の目的は、むしろ、使用者にとって事後的に実施できないSEPが現れないようにリスクを減らすことであるとした [7]

その上で控訴裁判所は、Philipsが行った一般的かつ包括的な宣言はETSIのIPR Policyに基づく義務を果たすために十分であったとした。この点について、控訴裁判所は、Philipsが特定のSEPの宣言を遅く行ったことは(必須でない特許を含めた)超過宣言(over-declaration)を招くとのAsusの主張を退け、逆に控訴裁判所は、早期開示ではETSI 標準に必須でない特許が含まれてしまう可能性の方が高いとした [8]  。更に、控訴裁判所は、欧州委員会の水平的協調行為に関するガイドライン(Horizontal Guidelines )によれば包括的宣言はEU競争法の目的上許容されるSEP宣言の形式の1つであり、Philipsの包括的宣言はTFEU第101条違反に当たらないと指摘した  [9]

FRAND違反を主張するAsusの抗弁(FRAND defense)の第一の根拠を退けた上で、控訴裁判所は、両当事者が交渉上Huawei要件に従っていたか否かについて評価した。控訴裁判所は、前置きとして、Huawei 事件におけるCJEUの判決は、Huawei要件に従わない特許保有者が自動的にTFEU第102条違反を犯したものとされる厳格な要件のセットを定めてはいないと述べた [10]  。このため、控訴裁判所は、本事件の特定の状況と両当事者の行為を評価する必要があるとした。

その次に控訴裁判所は、Huawei要件の第一ステップである侵害者への適切な通知の義務をPhilipsが遵守したか否かを審理した。控訴裁判所は、侵害を受けているとされる特許のリストとそれらが必須である標準をPhilipsが提出したこと及びFRAND条件でライセンスをオファーする意思をPhilipsが宣言したことによりAsusへの通知義務をPhilipsが明確に果たしていたと事件記録が示しているとの見解をとった。 [11]  また、その後の技術的議論において、Philipsは自社のポートフォリオとライセンスプログラムについての更なる詳細(クレームチャート及び標準ライセンスでのロイヤルティ料率を含む)を提供していた [12] 。これに対して、AsusはFRAND条件でのライセンスを受ける意思を表示しなかった。控訴裁判所は、交渉が常にPhilipsの側から始められ、AsusはPhilipsのポートフォリオを評価できる技術専門家を交渉に参加させていなかったと事実認定した [13] 。控訴裁判所は、交渉においてAsusが提起した技術的問題が交渉を遅らせることだけを目的としており「ホールドアウト(hold-out)」と言われる行為に当たるとした  [14]

この時点で既に、控訴裁判所はAsusがHuawei要件に基づく義務に違反しており、Philipsは差止命令を求める権利を有していると判断していたが、更に踏み込んでHuaweiフレームワークの第二ステップ以降の遵守についても検討した。控訴裁判所は、 Philipsが自社の標準ライセンス契約を提示したことは、具体的であり提示した料率の計算法も説明している点でCJEU要件を完全に満たしているとした [15] 。更に、控訴裁判所は、ドイツにおいて訴訟が提起された後にAsusが出したカウンターオファー自体は、PhilipsがHuawei要件を遵守しており従って差止命令を求める権利を有するとの結論を変えるものではないとした [16] 。最後に、控訴裁判所はPhilipsが交わしている比較可能なライセンス契約がFRAND適格であるかを評価するためにそれらへのアクセスを求めたAsusの弁護士による要求を却下した。控訴裁判所は、ETSIのIPR Policy、TFEU第102条、及びHuawei フレームワークの何れも当該要求の根拠とはならないとした [17]

  • [1] Koninklijke Philips N.V.対Asustek Computers INC、ハーグ地方裁判所、2017年、事件番号C 09 512839 /HA ZA 16-712。
  • [2] Koninklijke Philips N.V.対Asustek Computers INC、ハーグ控訴裁判所、2019年5月7日判決、事件番号200.221.250/01。
  • [3] 同判決、第4.63節、第4.68節、第4.75節、第4.80節、第4.82節、第4.93節、第4.100節、及び第4.117節。
  • [4] 同判決、第4.118節 以下。
  • [5] Huawei対ZTE、欧州司法裁判所、2015年7月16日判決、事件番号C-170/13。
  • [6] Koninklijke Philips N.V.対Asustek Computers INC、ハーグ控訴裁判所、2019年5月7日判決、事件番号200.221.250/01、第4.153節以下。
  • [7] 同判決、第4.155節及び第4.157節。
  • [8] 同判決、第4.159節。
  • [9] 同判決、第4.164節。
  • [10] 同判決、第4.171節。
  • [11] 同判決、第4.172節。
  • [12] 同判決。
  • [13] 同判決、第4.172節ないし第4.179節。
  • [14] 同判決、第4.179節。
  • [15] 同判決、第4.183節。
  • [16] 同判決、第4.185節。
  • [17] 同判決、第4.202節以下。