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Conversant 対 Huawei
2020年08月27日 - 事件番号: 事件番号: 4b O 30/18
http://caselaw.4ipcouncil.com/jp/german-court-decisions/lg-dusseldorf/conversant-huawei
A. 事実
原告であるConversantは、欧州電気通信標準化機構(「ETSI」)によって開発された各種無線通信規格の実施において必須な(と見込まれる)ものとして宣言された特許(標準必須特許、又はSEP)のポートフォリオを保有する不実施主体である。Conversantは、そのSEPポートフォリオに対して二者間ライセンスを提供すると共に、Via Licensingが管理するパテントプールである「Multi-Generation-Pool」のメンバーでもある。
被告は、中国に本社を置き、世界的に活動するHuaweiグループ(Huawei)の親会社及びドイツの子会社2社である。
ConversantはETSIに対し、係争特許を含むSEPを公平、合理的、非差別的(FRAND)な条件で規格利用者に提供することを誓約した。
2014 年 4 月 29 日、Conversant は Huawei に対して、自社の特許が侵害されていることを通知した。通知には、侵害されたとされる製品の例が示されると共に、当該製品で使用されている特許が示されていた。その最初の通知の後、両当事者は2015年から2017年にかけて交渉を行った。
2017年7月、ConversantはHuaweiを相手取り、イングランド・ウェールズ高等法院(英国高等法院)に提訴した。Conversantは高等法院に対し、とりわけ、自社のSEPポートフォリオについてFRAND条件によるワールドワイドライセンスの条件設定と、Huaweiに対する(裁判所が決定した条件を拒否した場合の)差止命令を要求した。同時に、Conversantは、Huaweiのドイツの関係会社の1社に対し、規格に対応した最終製品の正味販売価格に対する割合として計算したロイヤルティの申出を送付した。これについては、導入された規格(2G、3G、4G)及び各地域の市場(「主要市場」及び中国を含む「その他の市場」)に応じて異なるレートが提示された。Conversantは、この申出について、Unwired Planet対Huawei事件で英国高等法院が過去に確認した条件に相当することからFRANDであると説明した[1][YH1] 。
HuaweiはConversantに対し、2018年の初めに中国の南京市中級人民法院(南京市法院)に訴訟を提起し、とりわけ、ConversantのSEPポートフォリオの中国部分の料率を決定するよう要請した。
その後、Conversantは、デュッセルドルフ地方裁判所(本裁判所)に対して、Huaweiに対する侵害訴訟を提起した。2019年9月、南京市法院は判決を下し、Conversantの複数の中国特許が無効又は侵害されていないとした。南京市法院はまた、Conversantが保有する中国SEPに対して支払うべき料率も決定した。Conversantはこの判決を不服として控訴した。
2020年3月12日、Huaweiはいわゆる「Key Offer Terms(重要な申出の条件)」をConversantと共有した。Huaweiによると、その条件に含まれる料率は、第三者とのライセンス契約から抽出されたものである。Huaweiは各ライセンシーと締結した秘密保持契約(NDA)を理由として、提案したロイヤルティに関するさらなる情報の提供を拒絶した。
本判決において、本裁判所はConversantを支持し、とりわけHuaweiに対する差止命令を認めた [2]。
B. 判決理由
本裁判所は、係争特許は侵害され、標準必須であると判断した[3]。
さらに、本裁判所は、競争法に基づくHuaweiのFRAND宣言を理由とする抗弁を棄却した [4]。Huaweiは、Conversantが差止命令による救済を主張することにより、特にHuawei対ZTE事件において欧州連合司法裁判所(the Court of Justice of the European Union:CJEU)がSEP保有者に課した行動要件を満たしていないことから(Huaweiの判断又はフレームワーク)[5]、EU機能条約(TFEU)第102条に違反し市場における支配的地位を濫用したと主張していた。
市場における支配的地位
本裁判所は、Conversant が市場における支配的地位を有していると判断した[6]。
本裁判所は、特許の所有のみでは、たとえそれが標準必須特許であっても、特許保有者に自動的に支配的地位を与えるわけではないことを指摘した。支配的地位を構築するためには、(下流の)市場に参入するために当該特許へのアクセスが必要でなければならない。このことは、Huaweiの標準規格に対応した携帯電話に関しても当てはまる[7]。
この状況で、本裁判所は、ConversantのETSIに対するFRAND誓約は、同社の市場における支配的地位を制限するものではない、と説明した。確かに、ETSIのFRAND条件を約束することは、SEP保有者がその特許をFRAND条件でライセンスする義務を負う限りにおいて市場力を制限するが、この制限はライセンスが実際に付与されるまでは実質的な効果を持たない[8]。「マルチゼネレーション・プール(Multi-Generation-Pool)」形式による別の形でのライセンス供与の選択肢も、それ自体で Conversantの市場における支配的地位を排除することはできない、というのが本裁判所の見解である[9]。
支配的地位の濫用
しかし、本裁判所は、ConversantはTEFU第102条に違反して市場における支配的地位を濫用したとは言えないと判断した[10]。ConversantはHuaweiフレームワークの下で自己が負う義務を遵守していたが、Huaweiはそれを怠っていた[11]。
本裁判所の見解では、Huaweiフレームワークは、SEP保有者と実施者について相互的な行動義務を確立している。従って、結果的な義務は、相手方がその前提となる義務を完全に果たしたときにのみ履行義務が生じる[12]。
侵害通知
そう述べた上で、本裁判所は、2014年4月29日付でConversantがHuaweiに発出した書簡は侵害通知として十分に認められると判断した[13]。内容に関しては、通知には侵害された特許(特許番号を含む)、侵害している実施形態及び侵害している使用を示すことが必要とされるが、詳細な技術的又は法的分析はこの段階では要求されないとした[14]。本裁判所は、SEP保有者は侵害の通知とともにクレームチャートを提供する義務はないことを明らかにした[15]。さらに、実施者が既に侵害を認識している場合には、それに関する通知は必要ない(「無用な形式的措置」)と考えられるが、裁判所は通知が全く必要なかったか否かを評価する際には厳格な基準を適用すべきである[16]。
ConversantのHuaweiに対する前述の書簡について、本裁判所は、係争特許が当該書簡に明示的に記載されていないことを(Conversantにとっての)不利とはみなさなかった。この書簡の中で、Conversantは、そのポートフォリオ全体の侵害に言及し、及びいくつかの特許を例示していた。このことは、Conversantが書簡で言及していない他の特許も同様に侵害されていると想定していることをHuaweiに対して明らかにするものであった [17]。加えて、本裁判所は、HuaweiがConversantの法律上の前身会社と既にライセンス契約を締結していたため、Huaweiは当該特許ポートフォリオを詳細に認識していたはずである、という事実も考慮した[18]。
ライセンス供与を受ける意思
本裁判所は、Huaweiの行動全般を考慮し、当初Huaweiはライセンスを取得する意思があったように見えたとしても、その後の行動はそれが逆であることを立証していると判断した[19]。侵害訴訟の終盤においては、HuaweiがConversantからFRAND条件でライセンスを取得する意思があるとはもはや考えられなかった[20]。
本裁判所は、内容に関しては、実施者の意思表示は「高い基準」に基づくのではなく、「包括的」で「非公式」な宣言でも十分であると説明した[21]。実施者の行動は、いかなる場合でも、ライセンスに署名するという「明確な意図」を示すものであるべきである。この意図は、その後のライセンス交渉全体において実施者を「導く」ものとなるべきである[22]。
Conversantの侵害通知を受領した後、両当事者はクレームチャートを交換し、ConversantのSEPポートフォリオの技術的メリットについて話し合うために数回の会議を行っている。本裁判所は、このことから、Huaweiは当初FRANDライセンスを取得する意思があったものと判断した[23]。しかしながら、その後Huaweiがとった行動はこの仮定と矛盾するものであった。
本裁判所は、Huaweiが米国で係争中の他の携帯電話メーカー2社に対する特許侵害訴訟が Conversant に有利な形で判断されることを条件としてライセンス締結を行ったという事実は、意思の欠如を示すものであるとした(同判決第239節及び第241節参照)。本裁判所は、実施者が交渉中のライセンスに含まれる特許の有効性及び必須性に関する判決について情報を得ることは実施者の利益となるものであるが、かかる訴訟の結果をライセンス締結の前提条件とすることは受け入れられないとした。その理由は、特に、SEP保有者との契約に組み込まれた調整メカニズムにより、ポートフォリオ特許を無効とする裁判所の判決に対処することが可能なためである[24]。
さらに、本裁判所は、Huaweiが2016年3月12日にConversantに(カウンター)オファーした(極めて低い)料率について、Huaweiによるとそれが第三者ライセンサーとのライセンスに基づいていたことを十分に説明しなかったと批判した[25]。Huaweiはこれまでのところ、第三者ライセンサーとの間で締結されたNDAを行使している。本裁判所は、Huaweiは第三者ライセンサーと合意済みのロイヤルティ料率を開示したものの、それ以上の情報(特にそれぞれの契約のクロスライセンス要素に関する情報)の共有を拒否しており、Huaweiの行動は矛盾していると判断した[26]。さらに、秘密保持に関する懸念はHuaweiとConversant の間のNDAによって対処することが可能であり、Conversantは進んでこれに署名していたことを強調した[27]。
また、、HuaweiがConversantとの交渉開始から約3年後になってNDAの締結を交渉の継続を条件としていたことも、(ライセンス取得の)意思のなさを示していた[28]。本裁判所はHuawei自身がNDAのドラフトに関する話し合いを2013年に中止していたことを考慮し、数年後にNDAの締結を主張することによりHuaweiは主にライセンス交渉を遅らせることを意図していたと判断した[29]。
さらに、本裁判所は、HuaweiがConversantとのライセンス契約の締結において、正当な理由なしに補完的条件を付したことを指摘した[30]。特に、Huaweiは、少なくとも他の10社の中国の大手携帯電話メーカーが当該ライセンスを取得する前に、ConversantのSEPポートフォリオの中国に関係する部分に対するライセンスの取得を拒否していた[31]。
本裁判所は、Huaweiの行為全般を鑑み、「有効な」SEPのライセンスを取得する用意が (依然として)あるという係属訴訟中に行われたHuaweiの声明は、その時点までにHuaweiが示した意思のなさを「取り消す」ものであるという考えを否定した[32] 。この認識は2020年3月12日付のHuaweiのカウンターオファーについても当てはまり、提案された明らかに低いライセンス料率については十分な正当性が存在しなかった[33]。
SEP保有者の申出
Huaweiがライセンス取得の意思を適切に表明しなかったことから、本裁判所は、HuaweiフレームワークにおいてConversantがFRANDライセンスの申出を行う義務は、本件には該当しないと説明した[34]。これにかかわらず、本裁判所は、2017年7月のConversantの申出は、形式と内容の両方の点でフレームワークの要件を満たしていると判断した[35]。
本裁判所によれば、形式面については、SEP保有者の申出は書面でなければならず、ロイヤルティ、関連する計算パラメーター(ライセンス料率、参照値等)及び計算方法を具体的に記載する必要がある[36]。料率の「数学的由来」の説明は必要なく、SEP保有者は仮定や評価を根拠とすることができる[37]。FRAND の非差別的(ND)要素については、SEP保有者は被告を他の既存ライセンシーと同等に扱うことを証明するか、個々のケースで異なる扱いが正当化される理由を詳しく説明する必要がある[38]。
同等の契約
本裁判所は、申出条件の合理性を判断する上で、比較可能なライセンス契約の存在は「重要な指標」であると強調した[39]。しかしながら特許権者は、保有するすべてのライセンス契約を示す義務はないとした。特に、申出条件が不合理及び/又は差別的であるか否かの評価に関連しない契約は、開示する必要はないとされている[40]。本裁判所は、全ての第三者との契約の包括的な開示が実務上一般的であることの特定には至らなかった[41]。
このような背景から、本裁判所は、Conversantは真に関連する比較可能な契約について十分な情報を提供していたと判断した[42]。
その一方で、本裁判所は、ConversantはHuaweiに申し出たライセンスと比較できないような契約条件を詳述する義務はないと判断した[43]。これはConversantが保有する(SEPではない)実施特許を対象とするライセンスに関しても同様である[44]。Conversantが市場からの撤退直前の実施者と(比較的低い料率で)締結した契約も比較対象とはならないと考えられた[45]。いずれにせよ、本裁判所は、ライセンシーが関連製品市場においてもはやHuaweiと直接する競合する相手ではなく、当該契約はHuaweiの競争力に影響を与えないため、そのような契約を開示する必要はないと判断している[46]。同じことが期限切れのライセンス契約にも適用される。そのような契約は市場における競合他社に対するHuaweiの地位を損なうものではない[47]。また、本裁判所は、クロスライセンスの要素を含む契約は、原則として、そのような考慮を含まないライセンスと直接比較することはできないと指摘した[47]。
さらに、本裁判所は、本件においてConversantは当該SEPの以前の所有者によって締結されたライセンス契約を詳細に説明する義務はないと判断した[47]。デュッセルドルフ裁判所の判例では、SEP保有者の前に当該特許を法律上所有していた者によるFRAND誓約は、ライセンシーに提示される条件に関してその後の所有者を拘束することを示唆している。しかし、Huaweiは当該特許の前所有者と契約を締結していたため、前所有者が以前に締結した契約の条件についてConversantがHuaweiに情報を提供する必要はなかった[47]。さらに、Huaweiは、2017年3月にConversantに行ったカウンターオファーを当該(前所有者との)契約を基に形成していた[47]。
関連する判決例
上記に加え、本裁判所はConversantが裁判において、同社特許の有効性及び標準必須性並びにライセンス契約のFRAND適合性に関する裁判所の判断を適切に提示したと判断した[48]。
本裁判所は(関連する同等の契約に加えて)デュッセルドルフの裁判所が表明した、SEP保有者は原則として既存のライセンス契約に関する判決も提示する必要があるという見解を改めて強調した[49]。Conversantは、自社のポートフォリオに含まれる特許に関連するいくつかの裁判を特定し、当該裁判結果に関する情報を提供することでこれを実現した。
公平で合理的な条件
本裁判所は、そう述べた上で、Conversantによるライセンスの申出は内容の点でもFRANDであることを確認した[50]。
本裁判所は、ライセンス料率のみならず、ライセンスの全ての条件(対象となる特許、地域範囲等)が公平かつ合理的でなければならないとした[51]。本裁判所は、特にライセンス料率について、客観的に見て公平な料率を超えるすべての料率がTFEU第102条の下で搾取的かつ不合理とみなされるわけではないことを強調した。そうみなされるためには、2つの料金の間に川下市場におけるライセンシーの競争力を阻害するような明らかな差異がなければならないとしている[51]。
この点に関して、本裁判所は、同一条件の下で相当数のライセンスが既に締結されていることは、そのような契約が市場支配的な地位の搾取の下で締結されたものでない限り、提示された条件が実際に公平かつ合理的であることを示すものとなり得るとの見解を示した[51]。
また、(証拠としての効力はないものの)裁判所が決定したライセンス条件も、当該判決を下した裁判所が全ての関連要素を包括的に考慮していた場合、FRAND適合性を評価する際に考慮されるべき側面である[52]。他の欧州の法域における裁判例は、いずれにせよ専門家の意見として適切である[53]。しかしながら、裁判所の判決から得られるFRAND評価基準は、個々のケースの実際の事実に「トレースバック」することが必要である。なぜならそれら事実が実際にライセンスが供与されたSEPポートフォリオの価値を反映しているからである[54]。
上記を勘案し、本裁判所は、ConversantがHuaweiに対する申出が公平かつ合理的なものであったことを、Conversantは十分に示していると判断した[55]。Conversantは、Huaweiに申し出たロイヤルティの計算が、Huaweiと第三者SEP保有者との間の紛争に関する2017年の判決で英国高等法院が採用した方法に従うものであることを特に詳しく説明していた[56]。両事件の対象となったポートフォリオは比較可能であり[57]、Huaweiは英国高等法院が検討した計算パラメーターに実質的に異議を唱えていなかったことから[58]、本裁判所は、前述の判決はConversantの申出が妥当であることの裏付けとなる十分な指標を提供していると判断した[59]。
この状況において、本裁判所は、ポートフォリオに含まれる全ての特許は有効と推定されると指摘した。したがって、ポートフォリオ特許を無効とする判決がない限り、特許の有効性はロイヤルティ計算における決定要因とはならない[60]。また、ポートフォリオ特許が無効となっても、必ずしも申出が「不合理」となるわけではない。不合理となるためには、ポートフォリオに「顕著な」変化が生じなければならない[61]。
本裁判所は、Conversantのポートフォリオに含まれる8つの中国特許の無効化が、Conversantの申出を「不合理」とするとHuaweiは示していないと判断した[62]。さらに、(無効化されている場合)どの特許が無効となったのか、それがライセンス料率の算定において有する重要性[63]、又はポートフォリオの特許が実際にどの程度標準必須でなかったのかについても示していなかった[64]。Conversantは相当数のクレームチャートを提示していたため、Huawei側には関連特許の必須性を争う詳細な弁論が必要であったが、それを行っていなかった。必須性を扱う国外裁判所の判決に依拠する上では不十分である[65]。
さらに本裁判所は、Conversantの申出にポートフォリオ特許の数が減少した場合にロイヤルティを減額するメカニズムを規定する「調整条項」が含まれていたことは納得がいくものだとした[66]。本裁判所は、FRANDの申出にはそのようなメカニズムが必要だと指摘している[67]。しかし、「調整条項」を含めることは必須ではない。ポートフォリオの変化については、契約期間中にポートフォリオ特許が失効した場合を考慮できるよう、ライセンス供与契約の期間を短くすることによる対応も可能である[67]。
本裁判所はさらに、Conversantの提示は、(FRANDに準拠したロイヤルティの決定を争う)中国の南京で係争中の並行訴訟を考慮に入れていないことを理由に不合理とは見なされないとの見解を示した[68]。FRANDロイヤルティを決定した外国裁判所の判決は、判決を下した裁判所の「国内」市場が対象の場合と、(特に)海外の他の市場を対象とする場合の双方において、必ずしも正式な拘束力を有さない[68]。したがって、本裁判所は、国外法域も対象とするグローバルポートフォリオライセンスの条件がFRANDか否かについて判断することは妨げられないと強調した[68]。
実施者のカウンターオファー
最後に、本裁判所は、2020年3月12日付のHuaweiの「その他主要条件(Key Offer Terms)」に、ライセンス契約締結のために当事者が合意しなければならない要素がすべて含まれているものではないことから、FRANDに準拠したカウンターオファーとは言えないと指摘した[68]。
- [1] Unwired Planet対Huawei、英国高等法院、2017年4月5日付判決、[2017] EWHC 711(Pat)。
- [2] Conversant Wireless対Huawei Technologies、デュッセルドルフ地方裁判所、2020年8月27日付判決、事件番号: 4b O 30/18(引用 Düsseldorfer Entscheidungen, Nr. 3055, www.D-Prax.de)。
- [3] 同判決、第124節及び第129-210節。
- [4] 同判決、第124節。
- [5] Huawei対ZTE、欧州連合司法裁判所、2017年7月16日付判決、事件番号: C-170/13。
- [6] Conversant Wireless対Huawei Technologies、デュッセルドルフ地方裁判所、2020年8月27日付判決、第221節以下。
- [7] 同判決、第217節。
- [8] 同判決、第223節。
- [9] 同判決、第224節。しかしながら、パテントプールを通じて同じ特許のライセンスを供与するという並列的な選択肢は、特にパテントプールの申出条件がFRANDである場合、最終的に市場における支配的地位の濫用との認定を排除することができる。
- [10] 同判決、第212節及び第225節以下。
- [11] 同判決、第225節。
- [12] 同判決、第227節。
- [13] 同判決、第231節。
- [14] 同判決、第231-232節。
- [15] 同判決、第235節。
- [16] 同判決、第232節。
- [17] 同判決、第234節。
- [18] 同判決、第236節及び第238節。
- [19] 同判決、第236節及び第266節。
- [20] 同判決、第237節。
- [21] 同判決、第238節。
- [22] 同判決、第239及び241節。
- [23] 同判決、第241節。
- [24] 同判決、第245節。
- [25] 同判決、第245節。さらに本裁判所は、Huaweiが守秘義務を持ち出して関連情報の提供を差し控えることに成功したことに疑問を呈した。385節以下参照。
- [26] 同判決、第246節、第389節以下も参照。
- [27] 同判決、第251節。
- [28] 同判決、第257節。
- [29] 同判決、第258節。
- [30] 同判決、第259節以下。
- [31] 同判決、第261-266節。
- [32] 同判決、第266節。
- [33] 同判決、第269節。
- [34] 同判決、第267節。
- [35] 同判決、第272節。
- [36] 同判決、第273節。
- [37] 同判決、第296節。
- [38] 同判決、第297節。
- [39] 同判決、第275節。
- [40] 同判決、第277節以下。節及び第296節。
- [41] 同判決、第280節。
- [42] 同判決、第282節。
- [43] 同判決、第286節以下。
- [44] 同判決、第300節。
- [45] 同判決、第304節。
- [46] 同判決、第305節。
- [47] 同判決、第308節以下。
- [48] 同判決、第311節。
- [49] 同判決、第363節。
- [50] 同判決、第365節。
- [51] 同判決、第367節。
- [52] 同判決、第368節。
- [53] 同判決、第378節以下。
- [54] 同判決、第379節。
- [55] 同判決、第393節以下。
- [56] 同判決、第374節。
- [57] 同判決、第396節。
- [58] 同判決、第396節以下。
- [59] 同判決、第414節。
- [60] 同判決、第420節。
- [61] 同判決、第414節以下。
- [62] 同判決、第419節。
- [63] 同判決、第397節。
- [64] 同判決、第423節。
- [65] 同判決、第457節以下。
- [66] 同判決、第460節。
- [67] 同判決、第461節。
- [68] 同判決、第464節以下。