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- 著者と寄稿者
Sisvel 対 Haier、ドイツ連邦最高裁判所(Bundesgerichtshof)
2020年05月5日 - 事件番号: KZR 36/17
http://caselaw.4ipcouncil.com/jp/german-court-decisions/federal-court-of-justice-bgh/sisvel-v-haier-federal-court-justice-bundesgerichtshof
A. 事実
原告であるSisvelは、各種無線通信規格の実施において必須な(と見込まれる)ものとして宣言された特許(標準必須特許、又はSEP)を保有する。
被告は、中国に本社を置くHaier groupのドイツ及びフランスの子会社である(Haier)。Haierグループは、とりわけ、GPRS規格に適合した電子機器の製造及びマーケティングを行なっている。
2012年12月20日、Sisvelは、Haier groupの親会社(Haier China)に対し、SisvelのSEPの使用侵害について通知した。Sisvelは、そのポートフォリオに包含されたおよそ450件の特許の一覧を提示すると共に、自社のSEPについてライセンスの申出を行う旨をHaierに知らせた。
2013年4月10日、Sisvelは、公平、合理的、かつ非差別的(FRAND)な条件にて規格ユーザにSEPの利用を認めることを欧州電気通信標準化機構(「ETSI」)に確約した。
2013年8月及び11月に、Sisvelは、Haier Chinaに対し、自社のライセンスプログラムに関する情報を記した追加の書簡を送付した。Haier Chinaは、2013年12月のみ、Sisvelに対して回答し、Sisvelと「正式な交渉(formal negotiation)」を行うことを望んでいる旨を明示すると共に、これまでのやりとりでSisvelが提示した割引の可能性に関する情報の提供を求めた。
2014年8月、Sisvelは、Haierに対してライセンスの申出を行ったが、この申出は、2014年9月に拒絶された。その直後、Sisvelは、Haierに対し、GPRS規格に従い、データ送信技術を対象としたSEPに基づき、デュッセルドルフの地方裁判所(本地方裁判所)に権利侵害訴訟を申し立てた(係争特許)。これに対応して、Haierは、2015年3月に、係争特許の無効の訴えを求め、ドイツ連邦特許裁判所に訴訟を提起した。
2015年11月3日に、本地方裁判所は、Haierに対して差止命令を出した [1] 。本地方裁判所はまた、侵害製品のリコール及び破棄を命じた。さらに本地方裁判所は、実体的事項に関するHaierの損害賠償責任を認めると共に、Haierに対して、Sisvelに対する侵害製品の販売にかかわる完全かつ詳細な会計書類の提示を命じた。
Haierは、この決定を上訴すると共に、本地方裁判所により下された差止命令の執行の停止を命じるよう、デュッセルドルフ高等裁判所(Higher District Court of Duesseldorf)(本上訴裁判所)に要請した。2016年1月、本控訴裁判所は、それぞれの命令を言い渡した [2] 。
上訴手続きにおいて、Haierは、とりわけ、Sisvelが侵害訴訟を提起した後の、Huawei対ZTE事件の2015年7月に下された判決(Huawei判決)において欧州司法裁判所(CJEU)がSEP保有者に課した行動要件について、本地方裁判所が、これを適切に考慮しなかった旨を主張した [3] 。 本控訴裁判所での手続き中、2016年1月16日に、Haierはさらに、ドイツの裁判所が係争特許の有効性及び侵害性を最終的に認めた場合のみ、SisvelからFRANDライセンスを受けるつもりであることを宣言した。2016年3月23日に、Haierは、Sisvelに別の書簡を送り、状況が何も変わっていないことを示した。さらに、Haierは、Sisvelの全ての特許に関するクレームチャート及びロイヤルティの算定についての追加の情報を要請した。2016年12月、Sisvelは、Haierに対して新たなライセンスの申出を行ったが、この申出はまた拒絶された。
2017年3月30日付の判決により、本控訴裁判所は、Haierの上訴を部分的に認めた [4] 。本控訴裁判所は、実体的事項に関するHaierの損害賠償責任及び会計書類の提示義務を確認した。しかしながら、本上訴裁判所は、Haierが侵害製品のリコール及び破棄についていかなる義務も負うものではないと判断した。Sisvelが、特にHaierに対してFRANDライセンスの申出を行わなかったことにより、Huawei判決に基づく自らの義務を遵守しなかったからである。本上訴裁判所は、両当事者が本件については和解することに合意したため、差止命令による救済の請求について決定を下す必要はなかった。係争特許が2016年9月に満了となるからである。Sisvelは、本控訴裁判所の決定に対して不服申し立てを行った。
2017年10月、係争特許の特定のクレームの範囲を狭め、別途その有効性を確認した [5] 。2020年3月に、ドイツ連邦最高裁判所(FCJ又は本裁判所)は、第二審として本決定を概ね容認した [6] 。
2020年5月5日付のこの判決により [7] (引用元 https://juris.bundesgerichtshof.de/cgi-bin/rechtsprechung/document.py?Gericht=bgh&Art=en&sid=3abd1ba29fc1a5b129c0360985553448&nr=107755&pos=0&anz=1)、FCJは、本控訴裁判所の判決を破棄した。第一審における本地方裁判所の裁定は、Sisvelの損害賠償請求及び情報及び会計書類の提示請求に関して維持された。Sisvelによる侵害製品のリコール及び破棄についての請求は、Haierが所有している製品又は係争特許が2016年9月に満了となるまでに製造され、もしくは引き渡された製品に制限された。Sisvelによる差止命令による救済の請求は、これが係争特許が失効した後に本控訴裁判所における従前の手続き中に撤回されたため、本裁判所の裁定の対象とはならなかった。
B. 判決理由 本裁判所は、係争特許がGPRS規格に必須であり、侵害を受けているとの判決を下した [8] 。
さらに、本裁判所は、Haierに対する侵害訴訟を開始することにより、SisvelがEU機能条約(TFEU)第102条を違反して支配的市場地位を濫用していなかったと判決を下した [9] 。
本裁判所の見地からは、Sisvelは、侵害訴訟を提起する前に、自らのSEPの侵害使用についてHaierに通知を交付する、Huawei判決に基づく自らの義務を履行している。一方、Haierは、Sisvelとライセンス契約を締結するという自らの誠実意思を適切に示す、自らのHuawei義務を履行しなかった。この事実は、もはや本件において決め手となるものではないが、本裁判所は、SisvelがそれぞれのHuawei要件に従ってHaierにFRANDライセンスの申出を行ったとの見解を示した。
支配的市場地位
本裁判所は、SisvelがTFEU第102条の意味の範囲内で支配的市場地位にあるとの判決を下した [10] 。
FCJは、支配的市場地位が、特許により付与される独占的な権利のみによって生じるものではないと説明した [11] 。従って、いくつかの要因を考慮する必要がある [12] 。1つ目の重要な要因は関連市場である。特許が、標準化団体によって策定された基準(又はデファクトスタンダード(事実上の標準))に適合する上で技術的に必須であって、かつ、下流市場で付された製品について、当該基準に代わる技術的な手段が利用できない場合、支配性の評価に適すのは、当該特許のライセンスが提供される(個々の)市場である [13] 。
これに基づき、本裁判所は、Sisvelが支配的市場地位にあると判示した:係争特許は、GPRS規格の実施に必須であること、また、GPRS規格に適合したいかなる携帯電話も、従前の規格の世代も今後の規格の世代も同一の機能を備えることが認められていないため、(下流)市場において競業するものではないこと [14] 。
この状況において、FCJは、規格実施者が、商品及びサービスの市場の買主と比較して、交渉において有利な立場を得る場合が多いという事実により、SEP保有者の市場支配が制限されるというSisvelの意見を認めなかった [15] 。本裁判所は、商品やサービスの買主とは異なり、規格実施者が、特許保有者との合意を締結していなくとも、規格に準拠した製品を製造するために必要な保護された技術にアクセスできるという有利な立場にいると判断した [16] 。しかしながら、本裁判所によると、この事実は、市場支配を除外するには十分ではない。ライセンスの交渉において個々の実施者に対するSEP保有者の交渉力の度合いは関係ない [17] 。 支配的市場地位は、独占的権利を行使して市場から実施者を排除する法的能力から生じる、特許保有者の優越した構造的な市場支配力によりもたらされる [18] 。
同様に、本裁判所は、SEPの行使に関するHuawei判決により課せられた制限が、市場支配(的地位)を損なうものではないことを指摘した [19] 。 本裁判所は、対等な立場で交渉を行うための手段をSEP保有者が最大限に利用できないため、これらの制限がSEP保有者の交渉上の立場を著しく弱めていると指摘した [19] 。 それにも関わらず、実施者が、特許が満了となるまで交渉を遅延することにより「ホールドアウト」行為を行うような場合でさえ、これは、特許保有者の支配的地位を問題として取り上げるには十分ではない [19] 。
それでもやはり、本裁判所は、係争特許が満了したので、Sisvelの支配的市場地位が終結したことを指摘した [20] 。
侵害製品を(下流)市場参入から排除する法的権利がこれ以上付与されなくなる場合、SEP保有者はもはや支配力を有しない [20] 。
市場支配的地位の濫用
両当事者の行為を検討し、本裁判所は、本控訴裁判所とは異なり、Sisvelがその市場支配的地位を濫用していないと判断した [21] 。
本裁判所は、SEP保有者が、本質的には自らの特許から生じる独占的な権利を行使することを妨げられていないことを明言した [22] 。特許が標準必須特許であるという事実は、その特許保有者が、支配的な市場地位を有することにより、その技術の使用を許可しているか、許可するよう義務付けられていない限り、かかる使用を容認しなければならないということを意味するものではない。 [22] 。しかしながら、FCJによると、SEPの使用を許可しなければならないという義務は、実施者がFRAND条件にてライセンスを取得するつもりのない場合には存在しない。特許保有者は、とりわけライセンス契約の締結を要請する法的権利を有しないため、支配的な市場地位を有するとしても、標準必須特許の使用者に対してライセンスを「課す」義務はない。 [23] 。
こうした背景のもと、本裁判所は、SEP保有者による独占的な権利の主張(差止命令による救済並びに/又は侵害製品のリコール及び破棄の請求)が市場独占性の濫用に相当し得るという、2つの事案を特定した。
- 特許保有者がその支配的な市場地位を濫用したり、非差別性に関わる義務を違反することなく、かかる特許保有者によって拒絶され得ない条件にて、実施者が無条件のライセンスの申出を行なった場合(本裁判所が2009年5月6日付の「オレンジブックスタンダート事件」判決(事件番号 KZR 39/06)における従前の裁定を反芻した限りにおいて) [24] 。
- 実施者が、基本的に、ライセンスを取得するつもりであるが、SEP保有者がその支配的市場地位に付される「固有の責任」に従ってライセンス契約の締結を円滑に進める「十分な努力」を尽くしていない場合 [25] 。
権利侵害通知
結果的に、本裁判所は、SEP保有者が、侵害請求訴訟を提起する前に係争特許の侵害使用について実施者に対して通知義務を負うという見解を示した [26] 。実施者が未だ侵害を認識していない場合に限り当該義務が発生するとFCJが示唆したと思われる [27] 。
本裁判所は、基本的には、技術実施者が、製品の製造や販売を担う前に第三者の権利が侵害されていないことを確認しなければならない旨を説示した [28] 。しかしながら、この責務は、とりわけ情報通信技術(ICT)分野においてはかなり困難なことである。ICT分野の製品は、多数の特許権の影響を受ける可能性がある [28] 。特許保有者は、通常はすでに侵害について調査しているが、実施者がFRAND条件にてライセンスを取得する必要があるか否かを検討し、それにより差止命令を回避できるよう、裁判手続きの開始前に実施者に対して特許の使用についての情報を提供しなければならない。 [29] 。
本裁判所によると、それぞれの侵害通知は、通常、グループ会社の親会社宛に送付されることで十分とする [30] [309] 。内容について言えば、通知には、侵害対象となった特許を明記すると共に、特定の侵害使用及び非難の対象たる実施形態について説明しなければならない [31] 。侵害の技術的かつ法的分析についての詳細は必要ない。従って、実施者は、最終的には専門家や弁護士の助言に従い、侵害の申立について専ら評価しなければならない [31] 。概して、実際にはクレームチャートを提示することで十分な場合多い(強制ではない) [31] 。
さらに、侵害された特許及び影響を受けた規格に関する情報を提供した特許保有者は、実施者が受け取った情報が侵害を評価するには十分ではないと直ちに示すことを予測していることを、FCJは付言した [32] 。これは、多くの特許及び規格が関わる場合にも当てはまる [32] 。
上記の事項を考慮し、本裁判所は、Sisvelが所定の適切な侵害通知をHaierに交付したと判断した。2012年12月20日付の書簡及びその後のやりとりは、該当する要件を満たすものであった [33] 。
誠実意思
その一方、Haierの行為を勘案し、本裁判所は、HaierがSisvelからFRAND条件によるライセンスを取得する意思のあるライセンシーとして行為しなかったと判断した [34] 。この点において、FCJは、逆の結論に至った本控訴裁判所によるそれぞれの評価に異議を示した。
本裁判所は、Haierがほぼ1年にわたって(2012年12月から2013年12月まで)、対応することをとどまっていたため、Sisvelからの通知に対するHaier Chinaの当初の回答が遅かったことに注視した [35] 。侵害通知に回答するのに数ヶ月を要する実施者というのは、通常は、ライセンスを取得することに関心のないこと示す [35] 。Sisvelが、2012年12月のHaierに対する最初の通知の送付後になって、Sisvelが係争特許を対象としてETSIに対してFRAND確約を行なったという事実は、適時性を評価する上でいかなる意味もなさない。2012年12月20日付の書簡において、Sisvelはすでに、Haierに対してFRANDライセンスを申し出るつもりであることを宣言している [35] 。侵害訴訟手続きの開始前に行われた遅延された回答が(2013年12月からのHaierの回答と同様に)、それでもやはり、当事者らによるHuawei判決(本上訴裁判所が行なった通り)の遵守を評価する際に考慮されるか否かについての疑義は、FCJによって判断されなかった [36] 。本件では、この疑義は関連性がない。というのは、内容の点から言えば、Haierによるいかなる回答にも、ライセンスを取得する意思が十分に示されていないからである [37] 。
本裁判所の見地から、実施者は、「どのような条件が実際にFRANDにあたるのかにかかわらず」SEP保有者とのライセンス契約を締結する意思について、「明確に」かつ「疑義の生じないよう」宣言しなければならない(Unwired Planet 対 Huawei(英国及びウェールズ高等法院、2017年4月5日付、事件番号[2017] EWHC 711(Pat)の判決を引用) [38] 。実施者は、その後、「目的志向」の態度にてライセンス供与の協議に参加する義務がある [317] 。むしろ、権利侵害の通知に対して、ライセンス契約締結を検討する意思を示したり、ライセンス取得の是非及びその条件についての協議に入る意思を示したりするだけでは不十分である [38] 。
これに基づき、本裁判所は、Haierの2014年12月の回答が、「正式な交渉」を行うという見込みのみが示されているだけであって、誠実意思を宣言するには不十分であると判断した。この宣言は、上記の「明確なもの」でも「疑義の生じないもの」でもなかった [39] 。
同様に、2016年1月16日付のHaierの書簡には、Haierがドイツの裁判所による係争特許の有効性及び侵害についての従前の確認を条件としてライセンス契約を締結したため、誠実意思についての十分な宣言が記載されていなかった [40] 。実施者は、原則として、ライセンス契約の締結後にはライセンス対象特許の有効性に異議を申し立てる権利を留保することができるが、本裁判所は、それぞれの条件下での誠実意思の宣言を行うことはできないと判断した [40] 。
さらに、FCJは、Haierが2016年3月23日付の書面により自らの誠実意思を十分に明示してはいなかったと判断した。Haierが上記の許容できない条件を撤回しなかったという事実とは別に、本裁判所は、侵害通知の受領後およそ3年間に渡って、全てのSisvelの特許に関するクレームチャートの作成を要請することは、Haierが係争特許が満了となるまで交渉を遅延させることにしか関心がないことを示すものであるとの見解を示した [41] 。
Haierが誠実意思を適切に宣言しなかったため、本裁判所は、侵害手続きが開始された後に、実施者がこの義務を履行することが可能であるか否かについて回答しなかった [42] 。
- [1] Sisvel 対 Haier、デュッセルドルフ地方裁判所、2015年11月3日付判決、事件番号No. 4a O 93/14。
- [2] Sisvel 対 Haier、 デュッセルドルフ高等裁判所、2016年1月13日付判決、事件番号No. I-15 U 66/15。
- [3] Huawei対ZTE、欧州司法裁判所、2015年7月16日付判決、事件番号No. C-170/13。
- [4] Sisvel v Haier、デュッセルドルフ高等裁判所、2017年3月30日付判決、事件番号No. I-15 U 66/15。
- [5] 連邦特許裁判所、2017年10月6日付判決、事件番号No. 6 Ni 10/15 (EP)。
- [6] 連邦裁判所、2020年3月10日付判決、事件番号No. X ZR 44/18。
- [7] Sisvel 対Haier、連邦裁判所、2020年5月5日付判決、事件番号KZR 36/17。
- [8] 同判決、第9節以下、及び第59節。
- [9] 同判決、第52節。
- [10] 同判決、第54節。
- [11] 同判決、第56節。
- [12] 同判決、第 57節以下。
- [13] 同判決、第58節。
- [14] 同判決、第59節以下。
- [15] 同判決、第61節。
- [16] 同判決、第63節。
- [17] 同判決、第62節。
- [18] 同判決、第61節以下。FCJによると、それぞれの法的障害により、会社が市場に参入することが不合理なものとなっている事実により、事前にライセンスを得ていなくとも、市場参入の障壁はすでに構築されている。第63項を参照。
- [19] 同判決、第64節。
- [20] 同判決、第65節。
- [21] 同判決、第67節以下。
- [22] 同判決、第69節。
- [23] 同判決、第70節。
- [24] 同判決、第71節。
- [25] 同判決、第72節。
- [26] 同判決、第73節以下。
- [27] 同判決、第73節以下。 本裁判所によると、特許保有者は、規格の使用者に対し、当該使用者が規格を実施することによりその特許の内容が許可なく使用されることになるという「事実を認識していない」場合には、特許の侵害について通知しなければならない。
- [28] 同判決、第74節。
- [29] 同判決、第74節及び第85節。
- [30] 同判決、第89節。
- [31] 同判決、第85節。
- [32] 同判決、第87節。
- [33] 同判決、第86 節以下。
- [34] 同判決、第91節以下。
- [35] 同判決、第92節。
- [36] 同判決、第93節以下。
- [37] 同判決、第94節。
- [38] 同判決、第83節。
- [39] 同判決、第95節。
- [40] 同判決、第96節。
- [41] 同判決、第98節。
- [42] 同判決、第97節。