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- 著者と寄稿者
Unwired Planet対Huawei Conversant対Huawei 及び ZTE、英国最高裁判所
2020年08月26日 - 事件番号: [2020] UKSC 37
http://caselaw.4ipcouncil.com/jp/english-court-decisions/unwired-planet-v-huawei-conversant-v-huawei-and-zte-uk-supre
A. 内容
英国最高裁判所(最高裁判所)による本判決は、欧州電気通信標準化機構(European Telecommunications Standards Institute: ETSI)が開発した無線通信標準の実施において必須な(と見込まれる)ものとして宣言済みの特許(標準必須特許又はSEP)の侵害に関する2つの別々の事件から提起された上告について判断を下している。ETSIの知的財産権ポリシー(ETSIのIPRポリシー)は、特許権者に対して自らの保有するSEPを公平、合理的、かつ非差別的(Fair, Reasonable and Non-Discriminatory:FRAND)な条件で標準の実施者にとってアクセス可能にするとの誓約を推奨している。
Unwired Planet対Huawei
第一の事件は、幾つかの無線通信標準に対応したSEPのポートフォリオを保有する会社であるUnwired Planet International Limited(Unwired Planet)と特に標準準拠のモバイルフォンを製造販売する中国の製造販売会社であるHuaweiグループ中の2社(Huawei)の間の紛争に関わるものである。
2014年3月、Unwired Planetは自社の5つの英国SEPの侵害に関しHuawei、Samsung、及び第三の会社をイングランド・ウェールズ高等法院(高等法院)において提訴した。この訴訟の過程において、Unwired PlanetはHuaweiに対しライセンシングの申し出をいくつか行ったが、ライセンス契約の合意には至らなかった。その一方で、Unwired PlanetとSamsungとの間ではライセンス契約が交わされた。
2017年4月5日、高等法院はHuaweiに対し、同法院がFRANDと決定した特定の条件による ワールドワイド・ライセンス契約をUnwired Planetとの間で交わすまでの差止命令を出した [1] 。Huaweiはこの判決について控訴した。高等法院は控訴が係属中の間、差止命令の強制を停止した。
2018年10月23日、英国控訴院(控訴院)は高等法院の判決を不服とするHuaweiの控訴を棄却した [2] その後、Huaweiは英国最高裁判所(最高裁判所又は最高裁)に上告を提起した。
Conversant対Huawei and ZTE
第二の事件は、ライセンシング会社であるConversant Wireless Licensing S.A.R.L. (Conversant)とHuawei及びZTEグループの2社 (ZTE)の間の紛争に関わるものである。ZTEは中国に拠点を置きネットワーク機器、モバイルフォン、及び消費者向け電子機器を製造し世界的に販売する企業グループである。 2017年にConversantはHuawei及びZTEに対する侵害訴訟を高等法院において提起した。Conversantは、数ある請求の中でもとりわけ、自社の4つの英国特許に対する侵害について差止による救済を求め、また自社のSEPポートフォリオについてグローバルFRANDライセンスの条件を決定することも高等法院に求めた。Huawei及びZTEは同事件について審理し判決を下す高等法院の管轄権について争い、Conversantの中国特許の有効性に異議を唱える訴訟を中国で提起した。
2018年4月16日、高等法院は、グローバルポートフォリオ・ライセンスの条件を決定する権限を含めて当該紛争についての管轄権を同法院が有すると確認した [3] 。HuaweiとZTEは高等法院のこの判決について控訴した。
2019年1月30日、控訴院は控訴を棄却し、英国特許の侵害を根拠としてグローバルライセンスのFRAND条件を決定するための管轄権を英国の裁判所が有すると確認した [4] 。HuaweiとZTEは最高裁判所に上告した。
最高裁判所は、両事件についての控訴を全員一致で棄却し、本判決を下した Unwired Planet対Huawei、Conversant対Huawei及びZTE、英国最高裁判所、2019年1月30日判決、事件番号 [2019] EWCA Civ 38。 。
B. 判決理由
最高裁判所は、両上告において以下の5つの争点が提起されたと特定し、それらについて判断を下した。
1. 管轄権 最高裁判所は、多国籍SEPポートフォリオについてグローバルFRANDライセンス条件を決定する管轄権を英国の裁判所が有し、従って、標準実施者がかかるライセンス契約の締結を拒否した場合には、英国SEPを根拠とする差止命令を発出する管轄権を有すると確認した [6] 。
最高裁は、ETSIのIPRポリシーの下でSEP保有者は国内裁判所に差止命令を求めることを禁じられていないとした [7] 。 最高裁は、国内裁判所が差止命令を出すことで侵害を止める可能性は、むしろ、実施者がFRANDライセンスの交渉を行うことを確実に奨励するのであり 「IPRポリシーが取ろうとするバランスに必要な構成要素である」とした [7] 。
また、最高裁は、英国特許を根拠とする差止命令の裁定の他に、英国の裁判所は、グローバルFRANDライセンスの条件も定めることができるとした。最高裁判所の見解によれば、ETSIのIPRポリシーが定めた「契約上の取り決め」は、英国の裁判所に該当する権限を行使する管轄権も与えている [8] 。
最高裁によれば、ETSIのIPRポリシーは「通信業界における商慣習の反映」を試みており 「国際的に効力を有することを意図する」ものである [9] 。通信業界においては、(ポートフォリオ中の)「正確にいくつの特許が有効か又は侵害されているかを知らずに」特許のポートフォリオについてグローバルライセンス契約を結ぶことは一般的である [10] 。特許権者は、特定の特許について必須である(と見込まれる)との宣言を行う時点では、開発中の標準におけるその特許の有効性や侵害の有無について知りえない [10] 。その一方で、実施者は、標準を実施する際にどの特許の有効で侵害しているかについて知ってはいない [10] 。
この「不可避の不確実性(unavoidable uncertainty)」は、特許権者が宣言した全てのSEPをワールドワイドに網羅したポートフォリオライセンスの締結によって対処され、その対価は「ポートフォリオ中の多くの特許が未検証であるという性質を反映しなければならない 」 [10] 。かかるライセンスを締結することで、実施者は標準への「アクセス」と、その標準に準拠するために必要とされる全技術の使用を許可されているとの「確実性」を「買う」のである [10] 。
最高裁判所は、商慣習によれば、FRANDライセンスには「未検証 (untested)」の特許が含まれるため、グローバルライセンスの条件の決定はそれに含まれる全特許についての有効性の評価を意味しないとの見解をとった。従って、ワールドワイドポートフォリオ・ライセンスの条件を定める際、英国の裁判所は外国特許に関する有効性及び侵害の有無について判断しておらず、かかる問題は、まさに各特許が認可された国の国内裁判所の専属的管轄権に服するものである [11] 。それ故、実施者が「これらの特許又はいずれかの特許について該当する外国裁判所において異議を申し立てる権利を留保し、結果として、当該ライセンス上でロイヤルティ料率変更のメカニズムを定めるよう求めることは一般に「公平かつ合理的(fair and reasonable)」であると判断された。 [12] 。
これに関連して、最高裁判所は、前述のアプローチが英国の法理に特有のものではなく、他の管轄区域、特にアメリカ、ドイツ、中国、及び日本で下された判決とも整合性があることを強調した [13] 。
2. 適切な法廷地(フォーラム・コンビニエンス)
最高裁判所が扱った第二の争点も英国の裁判所の管轄権に関するものである。原告は、 Conversant対Huaweiの事件において、英国の裁判所は管轄権を辞退して中国の裁判所に渡すか少なくともConversantの中国特許の有効性に対する異議申し立てについて中国の裁判所が判決を下すまで訴訟を一時停止するべきであったと主張した。
最高裁判所は、英国の裁判所には管轄権を辞退し中国の裁判所に渡す義務はないと判断した [14] 。最高裁は、中国の裁判所については(英国の裁判所と異なり)当該紛争の全当事者の合意がないことから、現時点では中国の裁判所にグローバルFRANDポートフォリオライセンスの条件を定める管轄権はなく、本事件には所謂「フォーラム・コンビニエンス(forum conveniens)」の法理が適用されないとした [14] 。更に、最高裁は、現状況下でConversantが中国の裁判所への管轄権付与を承諾するとは合理的に考えにくいと判断した [14] 。 最高裁判所は、本紛争に関わる英国の裁判所には、有効性に関する中国での訴訟の結果を待って英国での訴訟を一時停止する義務もないとの見解を示した [15] 。最高裁は、英国で提起された訴訟がConversantのグローバルSEPポートフォリオについてのFRAND ライセンス条件の決定に関するものであるのに対し、中国での訴訟はConversantの中国特許の有効性のみに関連しているためであるとした [15] 。
3. 非差別性
最高裁判所が審理した第三の争点は、FRANDの非差別性要件の解釈に関するものである。この訴訟においては、トライアル開始後にSamsungと合意した条件よりも不利なライセンス条件をHuaweiに対して申し出たことによりUnwired PlanetがFRANDの非差別性の部分に違反していたか否かという問題が生じていた。
最高裁判所は、高等法院及び控訴院の判断を支持し、(Unwired Planetは)違反してはいなかったとした。最高裁は、全ての同様の状況にあるライセンシーに対して同一又は同様の条件を申し出ることを特許権者に義務づけるような、所謂「厳格な(hard-edged)」非差別性の要件をFRANDは暗示してはいないと説明した [16] ] 。
ETSIの IPR ポリシー(第6条第1項)によれば、特許権者はFRAND条件のライセンスを提供することにコミットしなければならないとされている。最高裁判所は、この義務は「単一の一体化された義務(single, unitary obligation)」であり、ライセンス条件の公平性、合理性、及び非差別性に関する別々の3つの義務ではないとの見解を示した [17] 。よって、条件は「全ての市場参加者に公平なロイヤルティ価格として一般的に提供されるべきものであり」、特定のライセンシーの「個別の特性による調整なしに」SEPポートフォリオの「適正市価(true value)」を反映するべきであるとされた [18] 。
最高裁判所は、更に、ETSIのIPRポリシーに基づくFRAND誓約は、所謂「最も有利なライセンス(most favourable license)」の条項を暗示するものではなく、全ての同様の状況にあるライセンシーに対して最も有利な条件と同等の条件でライセンス許諾を行うことを特許権者に義務づけてはいないと明確に示した [19] 。最高裁は、ETSIによるIPRポリシー制定の経緯について詳しく検討した上で、 以前ETSIが前述のような条項をFRAND誓約に含める提案を明確に却下していたとの所見を述べた [20] 。 最高裁は、更に、価格差別化がそれに関わる私的又は公的な利益にとって有害であるとの「一般的推定(general presumption)」は存在しないとした [21] 。最高裁は、むしろ、特定のライセンシーに対するベンチマーク料率よりも低いロイヤルティのオファーをSEP保有者が選択することが商取引上の意味合いから合理的な状況も存在するとした [22] 。 このことは、例えば、所謂「先行者利益(first mover advantage)」にも当てはまる。最高裁は、一番初めのライセンシーとの間で低いロイヤルティ料率を合意することは、SEPから最初の収益を生むだけでなく、締結されたライセンスが当該ポートフォリオを市場において「有効化(validate)」し将来的なライセンシングに資する可能性もあるため、「経済的合理性(economically rational)」と「商取引上の重要性(commercially important)」を有し得ると認めた [22] 。このことは、Unwired PlanetがSamsung とライセンス契約を締結した当時のように、特許権者が自らの商業的な生き残りを確実にするのため低いロイヤルティ料率でのライセンス許諾を強いられる所謂「投売り(fire sales)」の状況にも当てはまるとされた [23] 。
4. 市場における支配的地位の濫用/Huaweiフレームワーク
最高裁判所が審理した第四の争点は、Huaweiに対する侵害訴訟を提起したことにより Unwired Planetが市場における支配的地位を濫用し「EUの機能に関する条約(the Treaty on the Functioning of the EU:TFEU)」 第102条への違反を犯しており、従って差止による救済へのアクセスを認められるべきでないのかという問題である。Huaweiは、この問題について、欧州連合司法裁判所(the Court of Justice of the European Union:CJEU)がHuawei対ZTE事件で確立した要件(Huawei判決又はHuaweiスキーム) にUnwired Planetが従っていなかったため差止命令の請求は却下されるべきであると主張していた [24] 。
最高裁判所は、この主張は当てはまらないと判断した [25] 。Huawei判決は、特許権者が標準の実施者に対して問題となっているSEPの使用が侵害を犯しているとの通知を差止による救済を求める訴訟の提起前に行う義務を定めており、違反した場合には、TFEU第102条における濫用行為に該当するとの見解を最高裁は示した [26] 。しかし、この義務の「性質(nature)」については、個別の事件の状況によって決まるとした [26] 。最高裁は、Unwired Planetが本侵害訴訟の提起に先立ちHuaweiに妥当な通知を行っていたと判断した [27] 。
Huawei判決が定めたその他の義務を考察して、最高裁判所は、Huaweiスキームは「強制的(mandatory)」なものではなく、正確に従えば第102条に違反するリスクを冒さずに [特許権者]が差止命令を求めることができる「ルートマップ(route map)」を示したものであるとの高等法院及び控訴院が以前に示した見解を支持した [28] 。最高裁は、それ以外にも、各当事者にFRAND条件でライセンスを締結する意思があるか否かという極めて重要な問題の評価を助けるいくつかの基準をHuawei判決が定めているとした[1076]。 最高裁判所は、その上でUnwired PlanetにはFRANDライセンスをHuaweiに許諾する意思があったのであり、濫用行為を行ってはいなかったと判断した [27] 。
5. 損害賠償か差止命令かの問題
最高裁が審理した五番目で最後の争点は、SEPの侵害に対する適切な救済についての問題である。最高裁判所における上告審において、(原告は)Unwired PlanetのSEPに対する侵害への適切かつ相応な(appropriate and proportionate) 救済措置は差止命令ではなく損害賠償の裁定であるとの主張を初めて行った。 最高裁判所は、本事件において損害賠償の裁定を差止命令の代替とする根拠は存在しないと判断した [29] 。最高裁は、Unwired PlanetとConversantのいずれも、裁判所が既にFRANDとして確認していたはずの条件でライセンス許諾を申し出た場合にのみ差止命令を求める権利を得たのであるから「差止命令の威嚇(threat of an injunction)」をHuawei又はZTEに「法外な料金(exorbitant fees)」を課すための方法として用いることはできなかったとした [30] 。
更に、最高裁は、(損害賠償訴訟の場合)SEP保有者は実施者に対して特許毎かつ国毎に訴訟を提起することを余儀なくされ実際的ではない(impractical)と考えられるため、損害賠償の裁定が「差止命令の裁定を差し控えることにより失われるものに対する適切な代替手段となり得る可能性は低い」との見解を示した [31] 。更に、最高裁判所は、(損害賠償が適切な救済とされれば)標準の実施者が「特許毎かつ国毎にロイヤルティの支払いを強制されるまで侵害を続けることへの誘因」を得るのであり、自発的にライセンス契約を締結することは侵害者にとって「経済的に意味がなくなる」ため、FRANDライセンシングがより困難なものになるだろうと指摘した [32] 。
それに対し、差止命令であれば「より効果的な救済となり得る」と最高裁は判断した。差止命令は、侵害を全体的に禁止することにより、「侵害者が市場に留まろうとするなら」 SEP保有者の申し出たFRAND条件を受け入れる以外には侵害者に「ほとんど選択肢を与えない」ためである[1081]。このような理由により、最高裁判所は、差止命令が「正義を成すために必要(necessary in order to do justice)」であると強調した [33] 。
- [1] Unwired Planet対Huawei、イングランド・ウェールズ高等法院、2017年4月5日判決、事件番号 [2017] EWHC 711(Pat)。
- [2] Unwired Planet対Huawei、英国控訴院、2018年10月23日判決、事件番号 [2018] EWCA Civ 2344。
- [3] Conversant対Huawei及びZTE、イングランド・ウェールズ高等法院、2018年4月16日判決、事件番号 [2018] EWHC 808 (Pat)。
- [4] Conversant対Huawei及びZTE、英国控訴院、2019年1月30日判決、事件番号 [2019] EWCA Civ 38。
- [5] Unwired Planet対Huawei、Conversant対Huawei及びZTE、英国最高裁判所、2019年1月30日判決、事件番号 [2019] EWCA Civ 38。
- [6] 同判決、第49節以下。
- [7] 同判決、第61節。
- [8] 同判決、第58節。
- [9] 同判決、第62節。
- [10] 同判決、第60節。
- [11] 同判決、第63節。
- [12] 同判決、第64節。
- [13] 同判決、第68節ないし第84節。
- [14] 同判決、第97節。
- [15] 同判決、第99節以下。
- [16] 同判決、第112節以下。
- [17] 同判決、第113節。
- [18] 同判決、第114節。
- [19] 同判決、第116節。
- [20] 同判決、第116節以下
- [21] 同判決、第123節。
- [22] 同判決、第125節。
- [23] 同判決、第126節。
- [24] Huawei対ZTE、欧州連合司法裁判所、2015年7月16日判決、事件番号 C-170/13。
- [25] Unwired Planet対Huawei、Conversant対Huawei及びZTE、英国最高裁判所、2019年1月30日、事件番号 [2019] EWCA Civ 38、第149節以下。
- [26] 同判決、第150節。
- [27] 同判決、第158節。
- [28] 同判決、第157節及び第158節。
- [29] 同判決、第163節。
- [30] 同判決、第164節。
- [31] 同判決、第166節。
- [32] 同判決、第167節。
- [33] 同判決、第169節。