Huawei対ZTE事件CJEU判決後の判例法
gb jp cn

4iP Council siteのメインサイトに戻る

TQ Delta対Zyxel Communications、英国 高等法院

2019年03月18日 - 事件番号: HP-2017-000045 - [2019] EWHC 745 (Pat)

http://caselaw.4ipcouncil.com/jp/english-court-decisions/tq-delta-v-zyxel-communications

A. 内容

原告TQ Delta LLCは、一定のxDSL規格のプラクティスに関してITU勧告の下で必須のものとして宣言済みの特許(標準必須特許又はSEP)を保有している。ITU勧告は、非差別合理的(Reasonable and Non-Discriminatory:RAND)条件で実施者がSEPを利用できるようにすることをSEP保有者に求めている。

被告であるZyxel Communications Ltd.及びZyxel Communications A/Sは、DSL規格に準拠した様々なタイプの機器を製造し販売している。

2013年、原告のSEPについてライセンスを受けるよう原告が被告に申し出た。しかし、ライセンスの合意には達せず、原告は米国で被告に対する特許侵害訴訟手続きを起こした。原告は、その後、自らが保有する2つのSEPに基づき、とりわけ差止命令による救済を求め、英国高等法院 (裁判所)において被告に対する侵害訴訟を起こした。これらの訴訟には、係争中の特許の有効性、必須性、及び侵害の有無についての技術的争点が関わる一方で(技術的トライアル)、これらの特許のRAND条件によるライセンス許諾の問題も関わっていた(RANDトライアル)。

被告は、原告に対して一切支払いを行っていなかった  [1] 。 また、被告は、裁判所がRANDと判断する条件で(全世界又は英国を対象とする)ライセンスを取得するとの確認も訴訟の過程において拒否していた [2]

裁判所は、技術的トライアルとRANDトライアルを並行して行った  [3]  。2019年3月11日、裁判所は技術的トライアルに関し、係争中の特許のうち1つは有効かつ必須で、侵害を受けている、他方の特許は無効であるものの、仮に有効であれば必須であったはずで、また侵害が存在したであろうと判断した [4]  。有効かつ必須で侵害を受けているとされた特許は、2019年6月25日に期限切れとなるものだった  [5] 。RANDトライアルは2019年9月に行われることとなった。

2019年3月18日、裁判所は知術的トライアルから発せられる命令の形について検討した [6] 。裁判所は、被告に対して即時差止を命じた。更に、裁判所は、クライアントから受けた既存の注文で侵害製品についての一定のものを被告が処理できるようにするための差止命令の一時停止及び差止命令からの除外(Curve-out)を認めなかった。また、裁判所は、被告が本事件について上訴を提起する許可も与えなかった。  [7]


B. 判決理由

本事件において差止命令を出すべきか否かを検討する上で、裁判所は被告の行為を特に重視した。裁判所は、係争中の特許の1つについて原告へのロイヤルティの支払なしに長年にわたって侵害を続けることで被告が「ホールドアウト(hold-out)」を行っており、裁判所による適切なRAND決定の結果に従うことも拒んでいるため、差止命令の発出を拒否する理由はないと判断した [8]

裁判所は、これらの状況下で差止命令による救済を与えないことは、ZyXEL [被告]が差止命令を回避して「ホールドアウト」戦略から利益を得ることを可能にし、[F]RANDライセンスの条件が被告の希望通りでなかった場合に裁判所が適切とみなす条件でのライセンス締結を拒否することも可能にするため「不公平(unjust)」 [9]  であるとの見解を示した [1044]。更に、裁判所は、原告から差止による救済を奪うことは、事実上(in effect)裁判所による強制実施許諾に等しく、原則上不適当である(wrong in principle)とした [10] 。裁判所は、このような背景に照らして、裁判所の決定から数か月後には係争中の特許が期限切れになる状況下で差止命令を出すことは不均衡(disproportionate)であるとの被告の主張を退けた。

また、裁判所は、クライアントからの既存注文で一定のものを被告が履行できるよう被告が求めた差止命令の1か月間の一時停止を認める理由はなく、差止命令からの除外(carve-out) を認める理由もないと判断した  [11] 。被告からは、即時差止から生じる可能性のある不利益の評価を可能にするための十分な証拠が提出されていなかった  [12]

更に、裁判所は、差止命令の判決について被告が上訴を提起することへの許可も与えなかった。裁判所は、控訴院がUnwired Planet 対Huawei の事件における最近の判決で、この問題についての正しい一般原則を既に示しているため、上訴の許可を与えることは不適当(wrong)であると判断した [13] 。その上、裁判所は、差止命令を発する判断は(裁判所の)裁量権の行使であり、それについての上訴は一般的に困難で、上訴が成功する可能性は低いとの見解を示した。また、差止命令の発出を拒否することは、「被告が [F]RAND誓約を強制しないことを選択している状況下で特許権者の排他的権利について強制実施許諾を行うことに等しく、特許権者から意味のある保護措置を奪うものである」ため、裁判所の判断は十分な根拠に基づいているとした [14]

  • [1] TQ Delta対Zyxel Communications、英国高等法院、2019年3月18日判決、第6節。
  • [2] 同判決、第10節。
  • [3] TQ Delta 対Zyxel Communications、英国高等法院2017年11月21日判決、[2017] EWHC 3305 (Pat)を参照のこと。 www.4ipcouncil.com.上で要約の閲覧可能。
  • [4] TQ Delta 対Zyxel Communications、英国高等法院2019年3月11日判決、[2019] EWHC 562 (ChD)を参照のこと。
  • [5] TQ Delta対Zyxel Communications、英国高等法院2019年3月18日判決、第2節
  • [6] RANDトライアルの過程において、裁判所は、とりわけ秘密情報に当たる可能性のある情報の訴訟における取り扱いについて暫定的判断を下した。TQ Delta 対 Zyxel Communications、英国高等法院2018年6月13日判決 [2018] EWHC 1515 (Ch)、2018年9月28日判決 [2018] EWHC 2577 (Pat)、及び2018年10月11日判決 [2018] EWHC 2677 (Pat)を参照のこと。 www.4ipcouncil.com.上で要約の閲覧可能。
  • [7] TQ Delta対Zyxel Communications、英国高等法院2019年3月18日判決、第19節。
  • [8] 同判決、第12節。
  • [9] 同判決、第13節。
  • [10] 同判決、第14節。
  • [11] 同判決、第15節。
  • [12] 同判決、第16節以下。
  • [13] Unwired Planet 対Huawei、英国控訴院 2018年10月23日判決、事件番号A3/2017/1784、[2018] EWCA Civ 2244、第53節及び第54節。www.4ipcouncil.com.上で要約の閲覧可能。
  • [14] TQ Delta対Zyxel Communications、英国高等法院2019年3月18日判決、第22節。