Huawei対ZTE事件CJEU判決後の判例法
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LG対TCL

2021年03月2日 - 事件番号: 2 O 131/19

http://caselaw.4ipcouncil.com/jp/german-court-decisions/lg-mannheim/lgdui-tcl

A. 事実

LGは、韓国に本社を置く世界的なエレクトロニクス企業であり、欧州電気通信標準化機構(ETSI)が開発した4G/LTEを含む各種無線通信規格の実施に必須である(と見込まれる)と宣言された特許(標準必須特許、SEP)ポートフォリオを保有する。ETSIは特許保有者に対し、公平、合理的、かつ非差別的(FRAND)な条件でSEPを規格利用者に提供することを誓約するよう求めている。

TCLは中国の電子機器メーカーであり、ドイツでは(とりわけ)4G/LTEに対応した携帯電話などを輸入販売している。

2016年3月、LGはTCLグループの親会社に対し、SEPポートフォリオに関する情報を記載した書簡を送付した。2018年8月までに、LGはTCLグループ内の異なる会社に合計7通の同様の書簡を送付した。これらの書簡に対するTCLの回答はなかった。2018年3月、LGは、ランニング・ロイヤルティの支払いを定めたライセンスの申出をTCLと共有しました。これにもTCLからの回答はなかった。

2019年11月、LGはTCLを相手取り、マンハイム地方裁判所(本裁判所)に侵害訴訟を提起した。訴訟が提起された後の2020年1月、TCLはLGに初めて連絡をとった。その後、両者は秘密保持契約(NDA)を交渉し、2020年5月になって初めて署名した。それとは別に、数回の会議とやりとりが行われ、LGはその中でTCLに対し、自社のSEPポートフォリオや既存のライセンス契約に関する情報を提供した。一方、TCLは過去の販売数量に関する情報を提供した。2020年6月、TCLは2018年12月に満了したLGとQualcommのライセンス契約(Qualcommライセンス)について、交渉の場で言及した。QualcommはTCLにチップセットを供給していた。TCLは、Qualcommから供給されたQualcommライセンスの対象となっているチップセットに関しては、LGの特許権は消尽していると主張した。
2020年7月、LGはTCLに対し、(当初申し出たランニング・ロイヤルティに代えて)一括払いとする修正ライセンス供与の申出を行った。TCLはこの申出を受け入れなかった。

2020年11月、TCLはLGにカウンターオファーを行った。このカウンターオファーは、ランニング・ロイヤルティ体系に基づくものであった。TCLは、Qualcommのライセンスを視野に入れ、LGが既にライセンスを供与しているサプライヤーから取得したチップセットを搭載した携帯電話をロイヤルティの計算から除外する条項を契約に盛り込むよう要求した。

その後間もなく、LGはTCLに対し、TCLのカウンターオファーにほぼ対応する再申出を行った。LGは、ロイヤルティの計算に関して一定の修正(上限と下限の追加等)を提案し、また、TCLが販売済みのデバイスのかなりの数をロイヤルティ支払いの対象外とすることを認める前述の条項は削除した。

2020年12月、TCLは一括払いを希望する旨を示した。その後LGはそれまでの申出を若干修正した。しかしながら、両社は合意に至らなかった。

2021年1月、TCLは2016年以降のドイツ国内での販売(Qualcomm製チップセットを搭載したデバイスを含む)を対象とした担保金を支払い、過去の販売についても会計処理を行った。

本判決において[1]、本裁判所はLGを支持し、(他の請求とともに)TCLに対する差止命令を認定した。

B. 判決理由

本裁判所は、係争特許は有効であり、侵害されていると判断した[2]

本裁判所はさらに、LGが請求する差止命令による救済は執行可能であるとした[3]。LGは、本訴訟の提起前に自社保有SEPの侵害についてTCLに適切に通知する義務を果たしており、また、TCLに対してFRANDに準拠した申出を提供していた[4]。それに対し、TCLは、LGからFRANDライセンスを取得する意思を十分に表明していなかった[5]。 

侵害通知

本裁判所は、2016年3月付の最初の書簡により(最終的には、2018年3月に提示されたライセンス供与の申出により)、LGは裁判手続の開始前に、係争SEPの侵害について十分にTCLに通知していたとの見解を示した[6]

2016年3月の書簡が(本訴訟の相手方である個々の関係会社ではなく)TCLグループの親会社宛であったことは、差し障りがない[7]。本裁判所によれば、このようなタイプの書簡を親会社に宛てることは、FRAND交渉における一般的な慣行に該当する[7]

さらに、本裁判所は、2016年3月付の書簡に係争特許番号が記載されておらず、特許出願番号のみが記載していたことについては、懸念を示さなかった[8]。本裁判所は、欧州特許庁の各データベースを検索することにより、TCLは、係争特許が付与され公開されていることを識別することができたと指摘した[8]。本裁判所は、この点について、SEP保有者は自社のポートフォリオに含まれる個々の特許を表示するリストを定期的に更新する義務を負わないことを強調した[8]

意思

本裁判所によれば、TCLはFRANDライセンスを取得する意思を十分に表明していない[9]。 実施者はFRAND条件でSEP 保有者との間でライセンス契約を締結する意思があることを「明確にかつ曖昧さを残さず」また「真摯にかつ無条件に」宣言し、その後「目的志向」な方法で交渉に参加することが要求される。[10]対照的に、侵害の通知に対しライセンス契約の締結を検討する意思を示したり、ライセンスを取得するか否か、またその条件について交渉を開始したりするだけでは十分とは言えない[10]

意思の評価については、すべての状況、特に実施者の行動が考慮されなければならない[11]。 特に、裁判所は実施者の行為が「合理的に交渉を促進する」か否かを審査する必要がある[12]

本裁判所は、交渉におけるタイミングは重要な要素であるとの見解を示した。実施者は通常の場合、合理的な期間内に対応することが求められ、もし長期にわたりFRAND ライセンスに関心を示すことを控えた場合には、実施者は「追加的な努力」をしなければならない[13]。例外的なケースとして、実施者による交渉への「消極的に関与」は、例えば SEP保有者自身が(ライセンス供与の実践に関する情報を共有しない等)目的志向的な方法で議論に参加しない場合、正当化される可能性がある[14]。SEP 保有者がライセンス供与を申し出た場合、実施者は懸念があれば速やかに表明すべきであり、その後の裁判手続で使用するために潜在的な異議を控えてはならない[12]

さらに、実施者のカウンターオファーも意欲の評価において考慮される。本裁判所によれば、実施者がライセンス供与の申出と SEP 保有者からの十分な情報を受領した後に、非FRAND のカウンターオファーをする場合、原則として、FRAND の解決策に至る意思がないことを示すとみなされる[12]。実施者が自己のカウンターオファーに固執し、改善を拒否する場合も同じである[12]

このような背景のもと、本裁判所は、全体的に見てTCLがLGとの交渉を適切に進めなかったと判断した[15]。裁判所は、TCLが、QualcommのライセンスがLGの特許権の(部分的な)消尽につながるかどうか、それはどの程度までかを明らかにする努力をしなかったと指摘した[16]。Qualcommのライセンスについては、2020年6月(2016年3月の最初の接触から約4年後)にTCLが初めて話題に持ち出し、2020年11月の係争中の裁判においてのみ再び言及された。その後TCLは、この問題についてさらに詳細に説明するというLGの申し出を数回にわたって断っている。本裁判所の見解によれば、TCLは特にQualcommの契約の文言が特許消尽にかかるTCLの主張の裏付けとなっていないため、より早く、より透明性の高い形でこの問題を主張することを試みるべきであった(同147節)。 裁判所は、Qualcommのライセンスは本事件においてLGの特許権の消尽につながらないと判断している(第95-104節参照)。


また、本裁判所は、TCLが実体的事項に関してLGから共有された情報を処理することなく、(特に好ましいロイヤルティ体系に関しても)何度か意見を変更したという事実も、遅延戦術の顕れであると判断した[18]。遅延戦術のさらなる兆候は、TCLが、原則として、交渉における自らの行動を係争中の侵害裁判の進展と整合させていた点にもみられる(例えば、TCLは、訴訟提起が送達された後に初めてLGと接触し、訴訟の口頭審理の直前にカウンターオファーを行っている)[19]。本裁判所は、TCLがLGとの交渉開始をその時点で既に数年間遅らせていたことを考えると、交渉を進めるために追加的努力を行うべきであったが、TCLがLGとのNDAを締結するのに約4か月かかったことも指摘している[20]


さらに、裁判所は、TCLがLGに対して非FRANDカウンターオファーを行ったことは、TCLがライセンス交渉に十分に関与していなかったことをさらに示すものであると考えた[21]。本裁判所によれば、TCLのカウンターオファーはFRANDではなく、その理由はQualcommのライセンスがLGの特許権の(部分的)消尽を引き起こしたか否かという「商業上重要な」問題は、その後の当事者間の交渉又は裁判手続に委ねられたためであった[22]

本裁判所は、FRAND条件は原則として或る幅であるため、分野や時期によって異なる可能性があり、当事者間の誠実な交渉において個別の状況に基づき決定されなければならないことを強調した[23]

本裁判所の見解では、ロイヤルティ支払額に「重大な影響」を与える物議を呼ぶ問題を未解決のままとするカウンターオファーは、通常適切ではない[24]。その状況でライセンス契約を締結することにより、実施者は特許の使用を正当化することができ(結果として差止命令 のリスクに直面することもなくなる)、同時に、将来の交渉や裁判手続において紛争となっている問題が解決されるまでロイヤルティの支払いを一部保留する権利を維持することができる[24]。このようなカウンターオファーはドイツ民事法典第315条に基づく申出に類似しており、本裁判所によれば、この申出も実施者のFRANDライセンス締結の意思を立証するには十分ではない[25]。また、欧州司法裁判所(CJEU)はHuawei対ZTE[26]事件において実施者に「具体的なカウンターオファー」を要求しており、これは、ロイヤルティはカウンターオファー自体に定義されていなければならないか、又は適宜決定することができることを意味していると本裁判所は指摘している[27]

本事件でTCLは、(LGと)Qualcommのライセンスが満了するまでに販売されたQualcommのチップセットを搭載した携帯電話について、過去の販売を対象とする解決金の計算から除外する権利を留保していた。LGの観点からは、TCLがそれぞれの携帯電話を考慮して計算されたロイヤルティを支払う用意があるのか否かという重要な問題が未決である。この問題は重要であり、裁判所によれば、Qualcommのチップセットを搭載した携帯電話がTCLの売上全体のかなりの割合を占めていることから、この携帯電話が除外されれば、解決金の額が大幅に削減される可能性があるのである[28]
 

SEP保有者の申出

本裁判所はさらに、TCLがFRANDライセンスを取得する意思を失ったことについてLGに責任を問うことはできないとし、むしろLGはその行動義務を全て果たしていたと判断した[29]。特に、本裁判所は、LGがTCLに対しFRANDに準拠したライセンス供与の申出を数回行っており、また、TCLの利益のためにその申出を適合させる用意があったことも指摘した[29]

本裁判所は、LGが(特に最終的なオファーにおいて)提案したロイヤルティは、無線通信分野で一般的に受け入れられている範囲の総ロイヤルティ料の負担につながると判断した[30]。さらに、LGはまだ市場で確立された標準的なライセンスプログラムを形成していなかったものの、 TCLに申し出た条件で他の実施者と2件のライセンス契約を締結していたという事実は、当該条件が 「明らかに非FRAND」ではないことを示すものであるというのが本裁判所の意見である[31]

 

担保差出し

本裁判所は、TCLがunwilling licenseeとして行動したと判断した後、TCLが提供した担保金(ドイツにおける過去の売上のみを対象とする)の金額が十分か否か、この支払いが遅延しているか否かについては審理しなかった[32]。 

 

  • [1] LG対TCL、マンハイム地方裁判所、2021年3月2日付判決、事件番号: 2 O 131/19 (引用 GRUR-RS 2021, 6244)。
  • [2] 同判決、第49-104節。
  • [3] 同判決、第111節以下。
  • [4] 同判決、第117節及び第158節以下。
  • [5] 同判決、第117節。
  • [6] 同判決、第118節。
  • [7] 同判決、第121節。
  • [8] 同判決、第122節。
  • [9] 同判決、第123節以下。
  • [10] 同判決、第124節。
  • [11] 同判決、第125節。
  • [12] 同判決、第126節。
  • [13] 同判決、第127節。
  • [14] 同判決、第128節。
  • [15] 同判決、第129-130節及び第142節以下。
  • [16] 同判決、第144節以下。
  • [17] 同判決、第147節。 当裁判所は、Qualcommのライセンスは本件におけるLGの特許権の消尽につながらないと判断した(第95節-第104節)。
  • [18] 同判決、第152節以下。
  • [19] 同判決、第154節。
  • [20] 同判決、第155節。
  • [21] 同判決、第129節以下。
  • [22] 同判決、第130節。
  • [23] 同判決、第132節。
  • [24] 同判決、第133節。
  • [25] 同判決、第134節。 ドイツ民事法典第315条の下で、特許保有者は、ライセンスに基づき支払われるべきロイヤルティを一方的に決定する権利を付与される場合がある。ただし、実施者は、この決定に対して法廷で異議を申し立てる権利を保持する。最終的に支払うべきロイヤルティの金額は、ライセンス契約締結後の裁判で決定される。
  • [26] Huawei対ZTE、欧州連合司法裁判所(CJEU)、2015年7月16日付判決、事件番号: C-170/13。
  • [27] LG対TCL、マンハイム地方裁判所、2021年3月2日付判決、事件番号: 2 O 131/19, 第133節。
  • [28] 同判決、第136節以下。
  • [29] 同判決、第157節。
  • [30] 同判決、第160節。
  • [31] 同判決、第161節。

[32] 同判決、第156節。