Huawei対ZTE事件CJEU判決後の判例法
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Unwired Planet対Huawei、[2017] EWHC 711 (Pat)

2017年05月4日 - 事件番号: HP-2014-000005

http://caselaw.4ipcouncil.com/jp/english-court-decisions/unwired-planet-v-huawei

A. 事実

原告は電気通信業界において特許技術のライセンスを供与する会社である。問題の特許(EP (UK) 2 229 744, EP (UK) 2 119 287, EP (UK) 2 485 514, EP (UK) 1 230 818, EP (UK) 1 105 991, EP (UK) 0 989 712)は電気通信ネットワークの符号化及び手順に関連するものである [1] 。そのほとんどは、原告が2013年に大手電気通信会社から取得した大型特許ポートフォリオの一部であった [2] 。原告は2014年に、ETSI IPRポリシーに基づきFRAND条件でライセンスを供与する意思があるとの宣言を行った。これらの特許の有効性、侵害及び必須性に関する5件の技術的な裁判が行われた。本サマリーは、競争法の問題、FRANDの問題、差止命令による救済及び過去の侵害に対する損害賠償に対処した、非技術的な裁判にフォーカスを当てたものである [3] 。2014年4月、原告は国際的な大手スマートフォンメーカーである被告に対し、原告のグローバル特許ポートフォリオ全体(SEP及び非SEPを含む)に関してライセンスを供与するオープンオファーを行った。被告は、特許侵害はなく、特許は必須ではなく、無効であると主張し、この申出を拒否した。被告はまた、この申出はFRANDではないことから、TFEU第102条に基づく市場における支配的地位の濫用には当たらないと主張した。2014年7月、原告は自己のSEPに限定してさらなる申出を行った。被告はこの申出に対してもライセンス条件がFRANDでないと主張して拒絶した [4] 。2015年6月に両当事者はさらなる申出を行った。これらの申出は、裁判所からの指示に基づき発出されたものである。原告はワールドワイド・ポートフォリオライセンスの申出を行い、被告は対象領域を英国に限定することを希望した [5] 。2016年8月から10月にかけて、両当事者は合意に達することなくさらなる申出を取り交わした [6] 。特許裁判所(Birrs J)は、原告は支配的地位にあったが、この地位を濫用はしていないと判断した [7] 。被告はFRAND条件でのライセンス取得に応じる用意はなく、原告は競争法に違反しなかった。よって、裁判所は特許侵害を防ぐための終局的な差止命令を認めるべきだと判断した。特許EP (UK) 2 229 744及びEP (UK) 1 230 818の侵害に対する差止命令は、2017年6月7日に発出された [8]
 

B. 判決理由

1. 市場支配力

裁判所は、支配力を評価するための対象市場を、各SEPについて個別にライセンスを供与する個別の市場として定義した [9] 。欧州の判例法では、SEPの保有は支配的地位の存在に対し反証を許す推定になりうるとされている [10] 。原告が主張する立場は、反対の肯定的な事例と結び付けられた否定ではなく、支配を認めないことであった。裁判所は、これは推定を覆すには不十分だという見解を示した。特に、買い手の対抗力に関する原告の主張は、適切な経済分析の裏付けがなく、説得力に欠けるものであった [11]
 

2. SEP保有者によるライセンス供与の申出

i. 概念的根拠としてのFRAND宣言

裁判所は、SEP保有者が支配的地位にない場合でもFRAND誓約が適用されることを指摘した。FRAND誓約はSEP保有者の市場支配力に対する実質的な制約として機能するとしている [12] 。SEP保有者によるETSI宣言は、FRAND料率を決定するための出発点でもある。裁判所が長文で論じる根本的な問題は [13] 、そのような宣言が契約を形成するか、及びその契約が第三者に利益をもたらすものであるか否かである。裁判所は、この宣言が持つ法律上の効果、特にその執行可能性がフランス法の下で物議を醸す問題であることを認めた [14] 。しかしながら、裁判所はFRAND宣言が技術標準化における重要な側面であるとの理由付けを行った。SEP保有者はFRANDの宣言を強制されることはない。もしそうであれば、その約束は公共の利益のために法律上の強制力を有し、撤回不能となるはずである [14]

裁判所は FRAND に対して手続的アプローチを適用した。FRAND は一連のライセンス条件だけでなく、一連の条件が合意されるプロセスも定めるものであることを強調している [15] 。それはSEP保有者と実施者/被告の双方に適用される。特にこのアプローチの下では、交渉の余地を残したまま申出を開始することが可能である。その一方で、極端な申出及び公平、合理的、非差別的な交渉を害するような妥協のないアプローチは FRANDアプローチとは言えない。 [16] このアプローチはまた、SEP保有者がFRANDの申出及び FRAND のライセンス契約締結の義務を負うことを意味する [17]


ii. 「真のFRAND料率」

裁判所は、特定の状況でFRAND条件を満たすのは、ただ一つの条件セット(「真にFRANDな料率」)のみであると考えている [18] 。これは、いわゆる Vringoの問題 [19] 、すなわち、FRANDが範囲であれば(幅があれば)2つの別個ではあるが同等のFRANDの申出が存在することになる、という問題を排除するものである。したがって、裁判所が差止命令を出すか否かによって、被疑侵害者又はSEP保有者にとって不公平な状況が生まれる [20]

裁判所は、「真の FRAND料率」を利用することにより競争法上の問題は発生しない、という意見である。理論的には、もし1つの条件のみが真にFRANDであり、FRANDがTFEU第12条に基づく濫用行為と非濫用行為の間の境界線を表しているのであれば、合意された全てのSEPライセンスは濫用となる深刻なリスクにさらされる可能性がある [21] 。しかしながら、裁判所は、FRANDの遵守とTFEUの遵守は同じではないとの見解を示している(裁判所は、Huaweiの判決においてCJEUがFRAND申出の義務とTFEU102条の遵守を同一視しているように見えると指摘した) [22] 。TFEU第102条は不当に高い価格設定を非難するものであるため [23] 、ロイヤルティ料率が真のFRAND料率より多少高くても競争法に反しない可能性がある。逆に、競争法の違反を構成するためには料率が真のFRANDの料率でないことが必要となるが、それだけで判断されるものではない [23]


iii. 差別性

裁判所は、ベンチマークとしてのグローバルレートを起点とし、そこからこのレートを適切に調整することが正しいアプローチであるとした [24] 。裁判所は、差別における2つの概念を区別した。第一の概念は、無差別の「一般的」概念としての、上記のベンチマークを導き出すために使用可能な FRANDの全体的な評価である [25] 。これは特許ポートフォリオの本質的な価値に基づくものであり、ライセンシー毎に変化するものではない。裁判所は、このベンチマークは同じ種類のライセンスの取得を求める全てのライセンシーに適用されるべきだとしている [26] 。 第二に、潜在的なライセンシーの性質を考慮した「厳格な」非差別義務が存在する [25] 。これはライセンス条件を調整するために使用可能な、別個の概念である。しかしながら、裁判所は、FRAND宣言はそのように厳格な非差別的概念を導入するものではないと判示し ている [27] 。裁判所の見解に反して、FRAND誓約に厳格な非差別性が含まれている場合、ライセンシーは差別性によって2つのライセンシーの間の競争が歪めることになる場合のみ、他のライセンシーに対するものよりも低い料率を要求する権利を有する(すなわち、FRAND宣言から生じる特定の非差別性の義務の履行を求める)ことができる [26]


iv. ライセンスの対象領域

裁判所は、英国のライセンスに限定した被告の申出はFRANDではないと判断した。裁判所の見解では、国ごとのライセンス供与は、国境を越えて流通する携帯電話通信機器のような商品にとって非効率である [28] 。また、多岐にわたるライセンスについて交渉し、非常に多くの異なるロイヤルティの計算及び支払を追跡することも非効率的と考えられる。合理的なビジネスでは、避けることができれば、このようなやり方はしない [28] 。このことは、本裁判において導入されたライセンスの大半がワールドワイド・ライセンスであったという事実が物語っている [29] 。さらに、業界では、ファミリー内の個々の特許ではなく、パテントファミリーに対して料金を設定することが一般的である。ファミリーベースでのポートフォリオに対する料金設定は、必然的に特定の法域の特許と他の法域の特許を結びつけることになる [30] 。したがって、裁判所によれば、ワールドワイド・ライセンスは競争法に反するものではない。意思ある及び合理的な当事者であれば世界的なライセンスに合意すると考えられることから、被告が英国に限定したライセンスを主張するのはFRANDではない [31]
 

C. 判決理由

1. 比較可能な契約及び合理的なロイヤルティ総額

裁判所は、ロイヤルティの料率を決定するためには、業界において交渉が実際にどのように行われるかについての証拠を含む、当事者間の証拠が重要であるとした [32] 。自由に交渉可能な別のライセンス契約を比較対象として使用することが可能である [33] 。トップダウンアプローチ [34] (当該SEPに対する特許保有者のシェアを設定し、それを規格のロイヤルティ総額に適用することで料率を設定する方法)と比較することも可能であるが、それはクロスチェックとしてより有用と思われる [35] 。他の裁判所が決定したロイヤルティ料率は、説得力のある判例として有用である可能性がある。しかし、裁判所の見解では、拘束力のある仲裁で決定されたライセンス料率は、当事者が通常支払う料率としてはあまり重みを持たない [32] 。ライセンス契約が比較可能であるためには、一定の基準を満たさなければならない [36] 。第1に、ライセンサーが原告であり、第2に、ライセンス契約が最近のものでなければならない。しかしながら、市場参加者が異なれば交渉力は異なり、それが交渉及びその結果としてのロイヤルティ料率に反映されるため、ライセンシーが被告又は同等の立場にある企業であることは必要ではない [36] 。最後に、裁判所は、携帯電話機の価格に基づくロイヤルティが適切であることを確認し、携帯電話機の価格の8.8%は合理的なロイヤルティ支払総額であることを示唆した。裁判所は、いずれの当事者の事案でも示唆された総額がこれよりも高かった(10.4%及び13.3%)ことから、8.8%は妥当であると判断した [37]
 

2. Huawei対ZTE事件から導き出された原則

裁判所はまた、Huawei対ZTE事件の判決に関する解釈の概要についても触れている [38] 。裁判所の見解では、「FRAND条件でライセンスを締結する意思」は、一般的な意思を指す。具体的な提案も必要であるという事実は、当該提案が実際にFRANDであるか否かを問うこととは関係がない。特許保有者がCJEUの定める手続きを遵守するのであれば、差止請求の提起は第102条に基づく濫用には当たらない。しかし、十分な通知が行われた場合でも、手続きに従うだけで特許保有者が完全に自由に振舞えるわけではなく、請求の提起が濫用となる可能性もある。言い換えれば、請求が濫用とみなされるような他の側面が存在する可能性がある。逆に、事前通知なしに今回のような請求を提起することは、必然的に濫用となる。裁判所は、本件の法的状況は、CJEUが想定した状況と重要な点で異なっているとした。FRAND誓約は、第102条に関係なく、有効に執行できる。被告は、差止請求に対する抗弁をするために、TFEU第102条を必要とはしない。
 

  • [1] Unwired Planet対Huawei [2017] EWHC 711(Pat) 第2節。
  • [2] 同判決、第54節以下。
  • [3] 同判決、第3節。
  • [4] 同判決、第5節。
  • [5] 同判決、第7-8節。
  • [6] 同判決、第11-14節。
  • [7] 同判決、第807節。
  • [8] Unwired Planet対Huawei、EWHC 1304 (Pat)。
  • [9] Unwired Planet対Huawei [2017] EWHC 711(Pat)第631節。
  • [10] 同判決、第634節。
  • [11] 同判決、第636-646節。
  • [12] 同判決、第656節。
  • [13] 同判決、第108-145節。
  • [14] 同判決、第146節。
  • [15] 同判決、第162節。
  • [16] 同判決、第163節。
  • [17] 同判決、第159節。
  • [18] 同判決、第164節。
  • [19] Vringo対ZTE [2013] EWHC 1591 (Pat)及び[2015] EWHC 214 (Pat)参照。
  • [20] 同判決、第158節。
  • [21] 同判決、第152節。
  • [22] 同判決、第154節。
  • [23] 同判決、第153節。
  • [24] 同判決、第176節。
  • [25] 同判決、第177節。
  • [26] 同判決、第503節。
  • [27] 同判決、第501節。
  • [28] 同判決、第544節。
  • [29] 同判決、第534節。
  • [30] 同判決、第546節。
  • [31] 同判決、第572節。
  • [32] 同判決、第171節。
  • [33] 同判決、第170節。
  • [34] 同判決、第178節。
  • [35] 同判決、第806 (10) 節。
  • [36] 同判決、第175節。
  • [37] 同判決、第476節。
  • [38] 同判決、第744節。