Huawei対ZTE事件CJEU判決後の判例法
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Continental対Nokia

2019年12月12日 - 事件番号: 6 U 5042/19

http://caselaw.4ipcouncil.com/jp/german-court-decisions/olg-munich-higher-district-court/continental-v-nokia

A. 内容

Nokiaは、3G及び4Gの無線通信標準の実施に必須のものとして宣言済みのいくつかの特許(標準必須特許又はSEP)を保有している。Daimlerは、世界最大の自動車製造会社の一つである。Continentalは、ドイツに本社を置く世界的な企業グループであり、Daimlerのサプライヤーの1つである。

2019年3月、Nokiaは、自社のドイツSEPに基づきDaimlerに対する合計10件の侵害訴訟をドイツのミュンヘン、デュッセルドルフ、及びマンハイムの各地方裁判所において提起した(ドイツでの侵害訴訟)。Daimlerが出した第三者への通知を受けて、Continental グループの2社(ドイツにおける子会社「Continental Automotive GmbH」とハンガリーにおける子会社「Continental Automotive Hungary Kft.」)がドイツでの侵害訴訟に補助参加人(intervener)として参加した。

2019年5月10日、Continentalグループのアメリカに拠点を置く子会社「the United States, Continental Automotive Systems Inc. (Continental US)」がNokiaによる反トラスト法違反を主張し、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所 (米国裁判所)においてNokia等に対する訴訟を提起した。

2019年6月12日、Continental USは、Nokiaに対してドイツでの侵害訴訟の遂行を禁じる外国訴訟差止命令を求める申立て(外国訴訟差止命令を求める米国での申立て) も米国裁判所に対して行った。米国裁判所は、Nokiaが外国訴訟差止命令を求める申立てに応答するための応答期限を2019年7月24日までとした。

2019年7月9日、Nokiaはミュンヘン地方裁判所(地方裁判所)に対して予備的差止命令を求める申立てを行った。Nokiaは、外国訴訟差止命令を求める米国での申立てを取り下げること及び外国訴訟差止命令又はこれに類する措置を求める将来的な申立てを差し控えることをContinental USに命ずるよう地方裁判所に求めた。これに加えて、Nokiaは、Continentalグループのドイツの親会社(Continental Germany)に対しても、とりわけ、Continental USに外国訴訟差止命令を求める米国での申立てを確実に取り下げさせることを命ずるよう(地方裁判所に)求めた。

2019年7月11日、地方裁判所は、Nokiaが求めた予備的差止命令をContinental USに対して発出した  [1]  。

2019年7月30日、地方裁判所はContinental Germanyに対しても差止命令を出し、同社の当該子会社(Continental US)に外国訴訟差止命令を求める米国での申立てを確実に取り下げさせるよう命じた  [2] 。Continental Germanyはこの判決を不服として控訴した。

2019年9月3日、Continental USは外国訴訟差止命令を求める米国での申立てを取り下げた。しかし、Continental USは、2019年10月8日に Nokiaに対する仮制止命令(Temporary Restraining Order: TRO) を求める申立てを米国裁判所に対して行い、Nokiaが自社のドイツ特許をContinentalグループの会社及びそのクライアントに対して主張することを禁じるよう同裁判所に求めた。この申立ては却下された。

2019年12月12日の 本判決 [3]  (https://www.gesetze-bayern.de/Content/Document/Y-300-Z-BECKRS-B-2019-N- 33196?hl=true&AspxAutoDetectCookieSupport=1を引用)により、ミュンヘン高等裁判所(高等裁判所)は、Continental Germanyによる控訴を棄却し、地方裁判所が2019年7月30日に出した差止命令を維持した。

B. 判決理由

高等裁判所は、Nokiaには自社の財産権を直接的かつ不法な脅威から守るためにContinental Germanyに対する差止命令を得る権利があると判断した。

ドイツ法の下では、米国裁判所の出す外国訴訟差止命令又はTROはNokiaの財産権への不正な侵害に該当するだろうとされた。それらはNokiaが自社の特許から発生する排他性を係属中のドイツでの侵害訴訟においてDaimlerに対し強制する権利をNokiaから奪うだろうとの判断である [4]

前述の各措置から発生するNokiaの財産権への脅威は、Continental USが既に外国訴訟差止命令を求める米国での申立てを取り下げてはいたものの、依然として緊急であるとされた。高等裁判所は、Continental USがNokiaに対するTRO を求めて新たな申立てを提起したことは、原告側が未だその戦略を捨てていないことを示しているとの見解をとった [5]  。

また、何れの申立ても(Continental Germanyではなく)Continental USが提起したという事実は、Continental Germanyに対する差止命令を排除するものではないとされた  [6] 。高等裁判所は、Continental USがドイツの親会社の認知/承諾を得て行為していたことを示唆するNokiaの申立てに対抗するための証拠をContinental Germanyが示していないため、Continental Germanyはその米国子会社が米国で提起した申立ての「共同実行者(co-perpetrator)」とみなされるべきであるとの地方裁判所の見解を維持した [7] [135]。

更に、高等裁判所は第一審において地方裁判所が下した 「外国訴訟差止命令に対する差止命令(anti-anti-suit injunction)」が法的に許容できることを明確にした [8]  。 Continental Germanyは、地方裁判所の差止命令は米国における外国訴訟差止命令と同じ効果をもつ(つまり、米国の訴訟手続きにおいて自らの権利を主張する機会をContinental USから奪う)ため、ドイツにおいて認容されるべきではなかったと基本的にと主張していた。

高等裁判所は、ドイツにおける外国訴訟差止命令に対する差止命令(anti-anti-suit injunction)がContinental USの提起した補助的申立て(外国訴訟差止命令を求める申立て) のみに関するものであり、米国でNokiaに対して提起された主訴訟には影響を与えないため許容できると判断した点については、地方裁判所の判断に同意しなかった [9] 。高等裁判所は、たとえ補助的な申立てであったとしても、一般に、裁判所の命令で当事者による申立の提起を妨げることはできないと判断した [9]  。

しかし、高等裁判所は、ドイツにおける外国訴訟差止命令に対する差止命令は、Nokiaが主張していたように、米国での外国訴訟差止命令に対する「唯一の効果的な防御措置(only effective means of defence)」であるため許容できるとの見解をとった  [10]  。また、本事件においては、Continental USの行為の自由を維持する利益に対抗するためには、不法なanti-anti-suit injunctionに対して、Nokiaに自らの利益の防御を認めることが正当であると高等裁判所は判断した  [11] [140] 。

更に、高等裁判所は、Nokiaが、原則として、外国訴訟差止命令を求める米国での訴訟に参加する立場にあったとの事実は、外国訴訟差止命令に対する差止命令の裁定をドイツにおいてNokiaに与えることを妨げるものではなかった。高等裁判所によれば、その理由は、ドイツで侵害訴訟を遂行するNokiaの権利に対して外国訴訟差止命令が及ぼす影響は、外国訴訟差止命令を求めてContinental USの提起した申立てについて判断を下す際に米国裁判所が考慮する要素ではないためである[141]。従って、Nokiaは米国裁判所での訴訟において自らの利益を十分に防御することができないだろうと判断された。

米国の外国訴訟差止命令がドイツにおいては強制できない可能性が高いという事実も、同様に本事件では無意味であるとされた [12]  。高等裁判所は、外国訴訟差止命令に従わずに米国で罰金の支払いを求められれば、Nokiaは、事実上、自社の特許をドイツでの侵害訴訟において主張することを止めざるを得なかっただろうと指摘した  [13]  。

これに加えて、高等裁判所は、ドイツにおいて地方裁判所が裁定した「外国訴訟差止命令に対する差止命令(anti-anti-suit injunction)」は、米国裁判所の管轄権に直接的な影響を及ぼさず、よって、米国の主権を問題にするものではないため国際法に違反しないと判断した [14]

高等裁判所は、最後に、地方裁判所の判決がEU法に違反しないことも強調した。本事件は、ドイツ国内の法人によるドイツ特許への侵害に関するものであり、そもそも本事件にはEU法が適用されないとの判断である [15]

  • [1] Nokia対Continental、ミュンヘン地方裁判所、2019年7月11日命令、事件番号 21 O 3999/19。
  • [2] Nokia対Continental、ミュンヘン地方裁判所、2019年7月30日命令、事件番号 21 O 9512/19。
  • [3] Nokia対Continental、ミュンヘン高等裁判所、2019年12月12日判決、事件番号 6 U 5042/19
  • [4] 同判決、第55節。
  • [5] 同判決、第56節。
  • [6] 同判決、第76節以下。
  • [7] 同判決、第81節以下。
  • [8] 同判決、第58節以下。
  • [9] 同判決、第59節以下。
  • [10] 同判決、第69節及び第72節。
  • [11] 同判決、第69節。
  • [12] 同判決、第70節。
  • [13] 同判決、第71節。
  • [14] 同判決、第73節。
  • [15] 同判決、第74節。