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Huawei 対 ZTE
2015年07月16日 - 事件番号: C-170/13
http://caselaw.4ipcouncil.com/jp/cjeu-decisions/huawei-v-zte
A. 内容
原告Huawei Technologies Co. Ltd.は、欧州電気通信標準化機構(ETSI)が開発したLTEE無線通信規格(標準必須特許又はSEP)のプラクティスに関して必須のものとして宣言済みの特許を保有している [1] 。2009年3月、原告は、当該特許を実施者が公平、合理的かつ非差別的(Fair, Reasonable and Non-Discriminatory:FRAND)条件で利用できるようにすることをETSIに誓約した [2] 。
被告ZTE Corp.及びZTE Deutschland GmbHは、LTE規格にかかわる複数のSEPを保有しており [3] 、とりわけ、ドイツにおいては、LTE準拠製品の上市も行っている [4] 。
2010年11月から2011年3月の間、両当事者は、原告のSEPポートフォリオのライセンス許諾に関し協議していた [4] 。原告が合理的なロイヤルティとみなした金額を示したのに対し、被告は、クロスライセンス契約の締結を求めた [5] 。しかしながら、ライセンス契約の申出は決着しなかった [5] 。
2011年4月、原告は、被告を相手取り、差止命令、それまでの使用にかかわる計算書の提出、製品のリコール及び特許侵害にかかわる損害賠償を求めて、デュッセルドルフ地方裁判所(地方裁判所)に訴訟を提起した [6] [6]。
地方裁判所は、訴訟手続を停止し、EU機能条約(TFEU)第267条に基づく先決裁定を得るため欧州司法裁判所(CJEU)に付託した。簡潔に言えば、地方裁判所は、SEP保有者がSEP実施者に対する禁止的差止命令を求めて訴訟を提起することが支配的地位の濫用でありTFEU第102条に反するとの問題に関し、ドイツ連邦裁判所と欧州委員会が相反する立場を取っていると見られる点に着目した [7] 。オレンジブック判決において、ドイツ連邦裁判所は、SEPにかかわる権利侵害訴訟において、被告は、ライセンス契約締結にかかわる無条件かつ公正な申出を特許保有者に提示しており、過去の使用行為にかかわる計算書を提出しており、かつ、それにより生じるロイヤルティにつき保証金を支払っている限り、TFEU第102条に基づき防御する(それにより差止命令を回避する)権利を有すると判示した [8] 。これに対し、欧州委員会は、複数のEU加盟国においてサムスンがAppleを相手取り権利行使に関連して提起した訴訟において、特許保有者のFRAND誓約に従いFRAND条件でのライセンス契約について協議する意思を被告が実証している限り、SEPに関し差止命令による救済手段を求める訴訟が原則としてTFEU第102条違反になるとの見解を示した [9] 。
現在の判決をもって、CJEUは、SEP保有者がTFEU第102条違反を生じることなく特許実施者に対し禁止的差止命令を求める訴訟を申し立てることのできる条件を確立した。とりわけ、CJEUは、SEP保有者がFRAND条件にて特許を実施できるようにする取消不能の引受けを行った場合、訴訟提起前に次の各条件を充足している限り、差止命令又は侵害製品のリコールを求めることにより支配的地位を濫用したことにならないと裁定した。
- まず実施者に対し、「当該特許を指し示し、何が侵害にあたるのかを明示することにより」特許侵害を通知している。
- 次に、申立てを受けた侵害者がFRAND条件でライセンス契約を締結する意思をあらわした場合、「当該条件でのライセンス申出について、とりわけ、そのロイヤルティ及び計算方法を明示した上で、当該侵害者に書面で明確に提示している」 [10] 。
これに対しSEP実施者は、特許保有者が禁止的差止命令又は製品リコールを求めた訴訟について、SEP保有者の申出に遅滞なく回答した場合に限り、当該訴訟の不適切性を訴えることができる [11] 。実施者は、当該申出を拒絶した場合、次の行為をしなければならない。
- 「FRAND条件に対応する明示的なカウンターオファーを、速やかに、かつ、書面にて」特許保有者に送付し [12] 、かつ、
- カウンターオファーが拒絶された場合、「銀行保証又は必要な預り金等を差し出す等して」、特許の実施に必要な担保を差し出す [13] 。
CJEUは、過去の使用行為に関しSEP保有者によりなされる損害賠償請求又は計算書提出の請求に上記の枠組みを適用しないことを明確にした。このような請求にかかわる行為は、標準的な準拠製品の上市又は市販継続が可能かどうかを左右するものでないため、TFEU第102条の侵害にあたらない [14] 。
B. 判決理由
CJEUは、SEP保有者の基本的な知的財産権(IPR)を司法により有効に保護することと、自由で歪みのない競争における公益との均衡を保つ必要性を強調した [15] 。
両当事者は、原告の市場における支配的地位の有無については争っていなかったため、裁判所の分析ではTFEU第102条に定める「濫用」の有無に焦点が当てられた [16] 。CJEUによれば、IPRの行使が支配的地位を保有する引受行為であるとしても、「元来」濫用になりえない [17] 。さらには、IPRの行使行為が支配的地位の濫用を構成するのは、「例外的な状況」に限られる [18] 。
SEPが関係する事例については、他のIPR関連事例と区別する。第一に、特許がSEPにあたる場合、その特許保有者は、「競合会社の製品の上市又は市販継続を妨げ、これにより、問題の製品の製造を留保できる」ことになる [19] 。これに加え、FRAND誓約により、特許保有者は、当該規格を実装する第三者に対しFRAND条件でSEPを利用できるとの「正当な期待」をもたらしている[19]。「正当な期待」がもたらされたことにより、権利侵害を訴えられた特許実施者は、SEP保有者がFRAND条件でのライセンス許諾を拒絶していた場合、原則として、TFEU第102条に依拠して防御することができる [20] 。
SEP保有者が法的手続を頼ってIPRの保護を求める権利を剥奪されることはないが、CJEUは、FRANDの引受けが、差止命令による救済手段を求めるに際し特定要件を遵守する義務をSEP保有者に負わせる根拠となると判示した [21] 。特に、TFEU第102条違反を回避するには、SEP保有者は、次の条件を満たさなければならない。すなわち、(a) 禁止的差止命令を求める訴訟を提起する前に、「当該特許を指し示し、何が侵害にあたるのかを明示することにより」侵害について実施者に通知しなければならず [22] 、かつ、(b) 実施者が当該ライセンス契約を締結する意思を表明している場合、FRAND条件でのライセンス申出について、「そのロイヤルティ及び計算方法」を明示した上で、当該実施者に書面で明確に提示しなければならない [23] 。この状況において、CJEUは、SEP保有者がそのような申出をするよう期待されうると認めた。これは、原則として、一般向けの規格ライセンス契約は存在せず、また、SEP保有者が第三者と締結した既存契約の条件は公開されていないことから、被疑侵害者に比べ非差別的な条件に従った申出であるかどうか確認する方が有効であるためである [24] 。
その一方で、(被疑)侵害者は、SEP保有者の申出に対し、注意を払った上で「業界で認められた商慣習に従い、誠実に」対応しなければならない[11]。応じるかどうかは、とりわけ「引き延ばし戦略」が黙示されない「客観的要素」に基づき確証しなければならない。 侵害者は、条件案において特許保有者のFRAND誓約がなされていないとしてSEP保有者のライセンス申出を拒絶することとした場合は、SEP保有者にFRAND条件に基づき書面による明示的なカウンターオファーをSEP保有者に送付しなければならない[12]。当該カウンターオファーが拒絶された場合において、(被疑)侵害者がライセンスを取得せずに当該SEPを既に使用しているときは、当該(被疑)侵害者は、業界で認められた商慣習に従い、銀行保証又は必要な預り金等を差し出す等して、適切な担保を差し出す義務を負う [13] 。担保の算定においては、とりわけ、「過去のSEP使用件数」を含めなければならず、被疑侵害者は、当該使用行為にかかわる計算書を提出できるよう用意しなければならない [13] 。(被疑)侵害者によるカウンターオファーにもかかわらず合意に至らなかった時点で、CJEUは、両当事者が「共通合意」により、「独立の第三者の遅滞なき決定により」ロイヤルティを決定するよう要請するオプションを有することを指し示した [25] 。
最後に、CJEUは、(被疑)侵害者がライセンス契約の協議と並行してSEP保有者の特許の有効性若しくは必須性又はこれを実際に使用することにつき異議を申し立てるか、将来これを行う権利を留保することができることを明確にした [26]
- [1] Huawei対ZTE、欧州司法裁判所2015年7月6日判決、第22節。
- [2] 同判決、第22節。
- [3] 同判決、第40節。
- [4] 同判決、第24節。
- [5] 同判決、第25節。
- [6] 同判決、第27節。
- [7] 同判決、第29節以下。
- [8] 同判決、第30節以下。
- [9] 同判決、第34節以下。
- [10] 同判決、第77節。
- [11] 同判決、第65節。
- [12] 同判決、第66節。
- [13] 同判決、第67節。
- [14] 同判決、第72節以下。
- [15] 同判決、第42節。
- [16] 同判決、第43節。
- [17] 同判決、第46節。
- [18] 同判決、第47節。
- [19] 同判決、第53節。
- [20] 同判決、第53節以下。
- [21] 同判決、第58節以下。
- [22] 同判決、第61節。
- [23] 同判決、第63節。
- [24] 同判決、第64節。
- [25] 同判決、第68節。
- [26] 同判決、第69節。